森高千里「SWEET CANDY」

PEACHBERRY
 俺、モリタカには特別、思い入れがあるわけではないのだけど。最近、CMで「私がオバさんになっても」をよく耳にするので、ちょっと思い出したことがあって。
 若い頃、会社のひとつ下の後輩がモリタカに似てた。本当に鈴を転がすような声で笑う、こじんまりとした可愛い女のコで、俺、2度ばかり食事に誘ったりもした。森高の「17才」のプロモビデオを同期の男友達の寮部屋で見せてもらいながら「後輩の○○ちゃんに似てるよな〜」なんてつぶやく彼を横に「俺、メシ一緒に食ったもんね〜」なんて一人心の中でほくそえんでいる俺がいた。まだ、オトコに目覚める前で、女の子もイケた時代の話だけど。
 「17才」でブレイクした頃のモリタカは、今思えばそれこそ「萌え系」アイドルの元祖と言えたのかもしれない。ミニスカ、ウェイトレス、フィギュアなんていうキイワードから言ってもね。そして70年代初期の小林麻美木之内みどりにも通じる、いかにもスレンダーなその体躯から吐き出されました、といわんばかりの、鼻にかかったか細い喉声。確信犯的に男の妄想を掻き立てる存在として、キョンキョンなんてったってアイドル」後、出るべくして出てきた人だったのかもしれない。「アイドルする」人ね。
 その後は、ドンチャカしたドラミング(「バカぽい」と表現されることも多かった)とか、思わず耳を疑うようなフレーズで聞く者を捕えて話さない自作詞とか、キョンキョンとは正反対の「負」のアーティスト性が認められて、90年代をその存在感で駆け抜けていった彼女。
 「SWEET CANDY」は、そんな彼女の97年の作品。「銀色の夢」とか「So Blue」とか結構この時代の彼女の作品には個人的に好きな曲が多いのだが、この「SWEET CANDY」は、やはりこのフレーズが秀逸だと思う。

南風が夏の街を通り抜けてく
今年の夏もああ 何もしなかったわ

 後輩の彼女とも結局何もなく、その後は男にも女にも恵まれず、夏(いわゆる「恋の季節」よね)を何十年と浪費し続けた俺には、とっても痛くて、とても切ない曲なのであった。