ミュージカル・ライフ〜本田美奈子

 俺は、朝令暮改をくりかえす上司が大嫌い。たぶん、自分の優柔不断さに負い目を感じていることの裏返しだろう。
 同様に、活動のコンセプトが一貫していない芸能人も嫌いだ。アンタ、いったい何がしたいの?みたいな人。そんなわけで、俺は昔、本田美奈子が嫌いだった。マドンナをコピーしたり、ロックに走ったり、いつの間にか演歌を歌っていたり。一貫性を無視して突き進む「芸能界に対する執着(媚び)」のようなものが、やけに鼻についたのだ。当時は、彼女が何をしていても、どこか「チビッコのど自慢」を見ている時のような、鼻白んだ感じ、ある種の嫌悪感を持って見ていたような気がする。
 オーディションを勝ち抜いて射止めたという「ミス・サイゴン」主役。その頃からだろうか、不思議と彼女に対する嫌悪感が無くなっていた。アクが強いミュージカルという世界こそ、彼女に合っている気がしたからかもしれない。しかしそれ以上に、実力勝負のその世界に飛び込む行為によって、それまでの「とっ散らかりぶり」も、そのための準備としての必要条件であったことを証明してくれた気がしたのだ。
 今となれば、彼女の紆余曲折の音楽遍歴は、ミュージカルそのものだったようにさえ思えてくるから不思議だ。きっと早すぎる「死」というフィナーレを迎えてしまったことで、すべてが美しく収まり、完結してしまったからなのだろう。
(追記)たとえ節操が無くても、とにかくいい歌を歌いたい。それを体現し、成功した素晴らしい歌手がどこかに居たような気がした。リンダ・ロンシュタットだ。本田美奈子も、もしかしたらそんな歌手になれたのかもしれない。ふと、そう思った。