カナメはスー〜『キャンディーズ・トレジャー』

キャンディーズ・トレジャー [DVD]

キャンディーズ・トレジャー [DVD]

 待ちに待ったキャンディーズの映像作品集。77年の砂防会館ライブ、同年千葉文化会館でのライブ、78年の芝郵便貯金ホールでのライブに、シングル曲のテレビ映像集を加えたDVD4枚組み。往年のアイドル映像集としてはツボを押さえた構成でマル。
 画像はとてもキレイで、とても30年近い昔の映像とは思えない。でも音の方は、バックバンド(ホーンバンド「スペクトラム」の前身「MMP」)とのバランスが悪かったり、ハンドマイクが声を良く拾えてなかったりと、当時の音響設備の限界を感じさせる。少し残念。
 でも、三人の息が合った(ときどき息の合わない)ハーモニーの魅力の醍醐味は、やり直しがきくスタジオ録音には無い、ライブでしか味わえないものなので、それを十分堪能できるアイテムにやっとめぐり合えた気がする。キャンディーズは復刻CDが充実しているのに比べ、これまで映像作品がほとんど無く、本当に待ち焦がれていたのだ。
 ライブ映像を見ると、やっぱり時代だな〜というのが最初の印象だ。シンプルを通り越してチープでさえある舞台セットをはじめ、ゴミくずのように積み上がる紙テープとか、お上品な敬語を使う、キャンディーズのMCとか。。。ライブで「みなさん、ようこそお出でくださいました。」なんて挨拶、すっかりファンを見下しているいまの「アーティスト」さまたちの口からは、ほとんど出ないセリフだもんね。
 シングル映像集では、まだブレイク前の「そよ風のくちずけ」の映像がオールスター大運動会なのも、とっても懐かい感じだった。彼女たちが歌ってても画面は競技シーンが続いてて、っていう。当時の売れない歌手ってそういう扱いだったんだよね。
 さて、三人のコーラス・グループとしての実力は言うまでもないんだけど、それは、華があって器用なラン(伊藤蘭)と地味ながら実力派のミキ(藤村美樹)、この二人のプロ根性があってこそだったんだな〜、とライブ映像を見るとよくわかる。業界関係者の間でも定評があったユニゾンも声質が似たラン・ミキの声がぴったり重なっているからこそ、なのだ。
 で、残るひとり、スー(田中好子)ちゃんはどうか、というと、ルックス的にもパフォーマンス的にも、どこかドン臭い印象なのね。歌詞もフリもよく間違えるし・・・。でも、そのスーちゃんがいたからこそ、のキャンディーズなのである。それが今回のテーマ(笑)。
 この愛らしいスーちゃん、ふわっとした声なので歌詞を間違えてもあんまり聴こえない(笑)。でもユニゾンでときどきチラッと、その鼻に掛かったトロけるボーカルが聴こえてくると「あ、これこそキャンディーズだ」、となる。そう、ラン・ミキのスキの無いボーカルではもうひとつ物足りない何か、それがスーちゃんのもつ「甘さ」なのね。パフォーマンスのアマさも含めて(笑)。
 そして得意の3声ハーモニーではおもに、ファルセットが美しいランが高音域、シャープな声で音程がしっかりしたミキがベースの低音域を担当している。スーちゃんは二人をつなぐ中音域を担当しているが、芯が無くふわっとしたスーちゃんの声がハーモニーではとてもよく溶けて聴こえる。これが肝心で、実はスーちゃんこそが、キャンディーズ・ハーモニーのカナメだったのでは?というわけね。ところがスーちゃん、とてもボーカルにムラがあって、声が出ているときと出ていないときの差が大きい。だから自ずと、ハーモニーが決まるのはスーちゃんの調子次第、みたいになってる。この映像集を見て何となくそれがわかったのだ。
 そう、だから結論は「カナメはスー」。一見「のろまなカメ」、でも実は「肝心カナメ」。キャンディーズの真のリーダーは、もしかしたらスーちゃんだったのかも、なんて。
 そんなことを考えつつ、なんやかや言ってこのDVD集、とっても楽しめました。恋のあやつり人形、アン・ドゥ・トロワ、どれがいいかしら、ハート泥棒、キャンディ・ツイストなどなど、歌い・踊り・コーラスを決める、日本音楽史上オンリーワンのパフォーマンスの数々は、一見の価値アリ。