マイ・フェイバリット・ソングス・オブ・百恵

 今日は百恵さんの数々の名曲の中からマイ・フェイバリット・ソングを紹介します。全アルバムのリマスターで話題となった『MOMOE PREMIUM』は我家の本棚にも鎮座しておりまして(百恵さんはCDラックではなく「本棚」こそ相応しいのです)、実はいつかは太田裕美さんのように「アルバム探訪」企画もやってみたいな、とは思っていたのだけど、全曲紹介というのは平岡正明先生が著作「山口百恵は菩薩である」で既にやられておりまして、大先生のあとに今更この俺が滅相もないわね・・みたいな気もして、あっさり断念した次第です(笑)。
 とにかく百恵さんの場合、とくに1975年後半から78年ごろにかけて、どんな歌を歌っても一定以上のレベルの仕上げてしまうようなボーカルの力(テクニック&表現力)があったので、ただでさえハズレが少ない中から数曲選ぶというのは本当に至難の業なのだけど、特に詞・曲・アレンジ、そして歌唱の4拍子が揃ったオススメの10曲をhiroc-fontanaが厳選して紹介します(シングル曲は除く)。

 1976年のアルバム『横須賀ストーリー』より。横須賀ストーリー美しいセリフ入り。ゆったりとしたメジャーキイのメロディーにのせて、禁断の恋の終わりを切々と歌う百恵さん。表現することへの飽くなき欲求と、その手段を得た喜びから溢れ出る瑞々しい情感。百恵さんのこの時期特有の、まるでチェロのような艶やかな声も素晴らしい。

 1976年のアルバム『パールカラーにゆれて』より。パールカラーにゆれて淡々と刻むギターのイントロで油断していると「♪冬から春まで 待ってます」という百恵さんのボーカルが入ってきて、この導入部だけでグッと心を鷲掴みにされてしまう。ブルース調の循環コードの中で、待ち続ける女の情念が次第にじりじりと燃え広がっていく感じ。百恵さんはこのとき17才、スゴイ。

 1977年、『百恵白書』のオープニング・ナンバー。百恵白書(初回生産限定盤)(紙ジャケット仕様)「♪横須賀から 汐入 追浜 金沢八景 金沢文庫」。こちらも冒頭のインパクトからキター!と言う感じ。イントロの叩きつけるようなピアノは若いエネルギーを象徴するかのようで、終始バックで細かく刻むギターのカッティングは、横須賀から京浜急行に乗って東京に住む彼のもとに向かう少女の心の躍動のよう。詞:曲:アレンジ、そして横須賀生まれの百恵さん本人のキャラとが渾然一体となった傑作。

  • 寒椿(詞:阿木耀子、曲:宇崎竜童、編:若草恵)

 1977年の『花ざかり』より。花ざかりこれはエンカ。森の奥の池の水面に音もなくポトリと落ちる真っ赤な椿。抑えた歌唱でその水墨画のような静けさを表現した前半部分と、引き返せない恋の深みに落ちた己を怨む後半の心の叫びにも似た歌唱の対比が鮮やか。緊張感のあるアレンジも秀逸で、研ぎ澄まされた空気を感じる。

  • COSMOS(宇宙)(詞:うさみかつみ、曲・編:萩田光雄

 1978年のアルバム『COSMOS』よりタイトル・ナンバー。COSMOS詞もアレンジもロマンティックで、宇宙空間の広がりと星々のキラキラとした輝きを感じさせるサウンド。半音での下降音階など、職人萩田氏らしい難しいメロディーを、さらりと優しく歌い上げる百恵さんの力量に脱帽の1曲でもある。

 1978年の大ヒットアルバム『曼珠沙華』より。二十才の記念碑 曼珠沙華詩人・新川和江のどこか高尚な印象を伴う詩に、萩田氏がまるで語りかけるような自然なメロディーをつけ、シャンソンあるいはミュージカルのようなドラマティックな曲になった。百恵さんの緩急織り交ぜたボーカルも素晴らしい、スケールの大きな曲。

 こちらも『曼珠沙華』。ストリングスだけのイントロを踏襲していることからして、この曲は「横須賀ストーリー」Part2。「夏が終わればさよならと それだけ言ってあなたに 会えなくなったわ」と吐き捨てる女性は、急な坂道を登って、今は、沈む夕陽を見つめている。「横須賀」がタイトルにつく曲に、ハズレなし。

 1979年『A FACE IN A VISION』より。幻想的なイントロ、まるで白昼夢のようなシュールな歌詞、百恵さんはまるで霊媒師のようにキイワードとなる言葉を次々と吐き出しつつ、エンディングではファルセットに上り詰めて、そのまま気を失ったかのよう。これは「幻覚」を形にしたような曲。

 こちらも『A FACE IN A VISION』より。A Face in a Vision「修羅 修羅 阿修羅 修羅・・・」。阿木さんのイカニモな歌詞にあざといな〜、と思いつつ、訥々と歌うようでいながら一つ一つの言葉に命を込めていく百恵さんの集中力に、いつの間にこちらも引き込まれてしまう。ここでの百恵さん、タメ息が出るほど色っぽい。ピアノ、ウッドベース、ドラムのトリオをメインにしたジャジーなアレンジも素晴らしくて、歌謡曲の枠をとっくに超えています。

 1979年のシングル「しなやかに歌って」のB面で、アルバムでは1980年『春告鳥』収録。春告鳥「川を渡る」という隠喩で娘たちの通過儀礼を歌ったものだが、全体の雰囲気としては絵画「ヴィーナスの誕生」をイメージさせる美しい曲。歌の終わりの「ラララ・・・」という流麗なコーラスは、まるで遥か高みから人間たちの営みを、深い慈愛をもって眺めている女神のようにさえ感じさせてくれる、素晴らしい歌唱。

 ふう。お付き合いありがとうございました。近いうち、百恵シングルのフェイバリット企画も予定してます。