マイ・フェイバリット・ソングス・オブ百恵〜シングル編第二部

 hiroc-fontanaお気に入りの百恵さんのシングル曲紹介、その続編です。さて今回は前置き抜きで本題に入ります。

 女性アイドルのメインストリームから生まれた、歌謡ロックの金字塔。曲の造り方として「アイドルだから、いいか・・・」というような「甘え」が全く見えないのが、百恵チームの凄いところ。例えば冒頭の「♪シャワーのあとの」♪ジャジャジャジャジャ♪の部分、バンドとボーカルのコール・アンド・レスポンスはまるでエルビスの「ハートブレイク・ホテル」だし、そもそもヤワなアイドルがパクる題材じゃないわけで。そしてその後の百恵さんのいわゆる「ツッパリ路線」もこの曲から始まるのだ。
 発売当時初めてラジオでこの曲を聴いたとき、まだ中学校に上がりたてだった俺は「モモエちゃんは遠くへ行ってしまった・・・」と思ったのよね。きっとモモエちゃん、黒いエナメルのツナギかなにかを着て、リーゼントヘアで歌うに違いない、なんて決め付けて(笑)。でも実際の衣装はシンプルなワンピースだったし、この曲も耳に馴染むほどに超カッコいい名曲であることがわかってきて、この曲によってますます百恵ちゃんの大ファンになってしまった俺なのだ。
 最高位2位、48万枚のセールスで、この年の夏、ジュリー「勝手にしやがれ」、PL「渚のシンドバッド」とともに繰り広げた三つ巴のチャートトップ争いは、本当にスリリングだった。

 ロックの次は叙情派歌謡路線。全編、力を抜いた軽い裏声でしっとりと歌い上げる百恵さんは、この時期に歌手として完成したのだなあ、ということがよくわかる。特に「♪こんな小春日和の」から始まるサビの高音域は、技巧に走る歌手だったらクドく歌い上げてしまいそうなところだが、百恵さんは実に軽やかにサラリと歌うことで、さださんお得意の「お涙頂戴的世界」を超越した、瑞々しい雰囲気をこの曲にもたらしているような気がする。
実際、レコード大賞でも堂々の歌唱賞受賞。歌手・山口百恵の存在感が一気に増したのは、このエバーグリーンなヒット曲があったからこそなのかもしれないな、なんて思う。大ヒットした記憶の割に意外にもチャートの最高位は3位どまりだったりして、その辺(記録よりも記憶に残る人ということ)も、百恵さんらしいところ。

 百恵さんにしか歌えない曲。百恵さんだからこそカッコいい曲。そして百恵さんを伝説にまで押し上げた曲。
「ばかにしないでよ そっちのせいよ」も、そのあとの「ちょっとマッテ!」というのも、ヘタをするとコミックソングにさえなりかねないのに、百恵さんが歌うとギリギリのところでリアルなドラマが成り立ってしまう。全編にわたってとんでもない早口フレーズなのに、お経のようなダサい日本語ラップにはならず、百恵さんが歌うとアルトサックスのジャズ・アドリブに近づく。すべてそんな感じなのだ。
 『交差点での車の接触トラブル →(プレイバック)→ 夕べの痴話ゲンカ → 気を取り直して海辺のカーラジオ →(プレイバック)→ 昨夜の男の捨てゼリフ → 女の方が思い直して腐れ縁、復活(笑)。』という、時空を越えてシーンが次々と展開する構成が凄くて、いま聴いてもつくづく「よく出来てるよな〜」と唸らされる曲。曲中にジュリーの「勝手にしやがれ」が出てきたり、突然のストップタイムが用意されたりなど、仕掛けたっぷりながらも曲そのものに幾度の反芻に耐えられるパワーがあって、見事チャートに20週以上留まるロングヒットとなり、セールスは50万枚を超えた。

 百恵さんのエロさ炸裂、エロさナンバーワンがこの曲。
 「あなたの○○○○が欲しいのです」なんて、とうとう伏字まで出てきたか、みたいな。もはや禁じ手っぽい阿木さんの戦略にはちょっとウンザリな感じもあるのだけど、「女のアタシにそこまで言わせて じらすのは じらすのは 楽しいですか」と身をよじるように歌う、百恵さんのエロさときたらもう・・・。○○○○に入るコトバが「じょうねつ」だなんて、そんなキレイゴトに終わるわけありませんって(ゼッタイ「アレ」しかないでしょ?笑)。おまけに2コーラス目では「いつでもアタシに言うだけ言わせて 知らん顔 知らん顔 どうしてですか」となって、この「しらんかお」のところの吐息まじりの歌い方がもろ「欲求不満な女」そのもので、本当にスゴイです、このボーカル。
前回のブログでも紹介した「山口百恵は菩薩である」の中で、宇崎さんが著者の平岡さんとの対談の中で「百恵さんには「なまめかしく歌って」というだけで「なんで知ってんの〜?」というくらい、ホントになまめかしくなっちゃうんだよね。」というようなことを話していて、そんな百恵さんのシャーマン的素質を感じるには、この「美・サイレント」は良いサンプルかもしれない。最高位4位、売上げ33万枚。

 引退に向けてのカウントダウンの中、リリースされたド真ん中のロックン・ロール。
 1980年と言えば、B・ジョエルが『Glass House』でロッカー宣言し、R・ロンシュタットは『Mad Love』でよりハードなロックに挑戦し、Queenが歌ったロカビリー「愛と言う名の欲望(Crazy little thing called Love)」が大ヒットした年。音楽シーン全体がシンプルなロックに回帰しようとしていたとき。
そして日本では引退を間近に控えた百恵さんが、最初で最後の、ロッカー変身宣言。それも「歌謡ロック」などという生半可なものでなく・・・ロックン・ロールの王道に挑んだのだ。
シャウトし、吼え、野太い声でドスをきかせる。結婚・引退のショウアップなんてまっぴらごめんよ。結婚前だけど未亡人になりすまして辛口のロックンロールで決めるわ。ついて来れるなら来てみなさいよ、と言わんばかりの、いい意味でのファンへの裏切りを重ねた百恵さん。痛快です。