斉藤由貴『moi』

moi(紙ジャケット仕様)
 斉藤さんデビュー25周年として紙ジャケアルバムが一斉発売されたのが昨年。かつてファン(と言ってもデビューからの3年ほど)だったワタシも、90年代以降の作品は未聴だったので、それを機に購入して聴いてみたのです。
 何だか途中から斉藤さんは独りよがりなオタク系少女趣味の世界に入ってしまわれて、演劇部女子特有なエキセントリックさとかが苦手なワタシとしては少し敬遠していたのだけど、90年代のアルバム「LOVE」とこの「moi」は、濃密な自作詞の世界が広がる一方で、サウンドはどこまでもアコースティックかつ肌触りのよいサウンドが絶妙な感じでして、何度も聴きたくなる魅力がある名盤でした。大きな収穫。
 特に、彼女のデビューを手がけたあの筒美センセーの作品が聴けるこの『moi』は、筒美ファンのhiroc-fontanaにとっては言うことなし、な感じ。
 このアルバム、ブックエンド形式で入るスタンダードナンバー「The April Fools」(英語・日本語バージョン)を始め、由貴さんが英語で歌う洋楽カバーが5曲と、筒美京平作曲・斉藤さん作詞の5曲が程よくブレンドされた作りになっているのね。その洋楽ナンバーはバカラックやブレッド「if」、デビー・ブーンの「You Light Up My Life」といった60年代〜70年代の、どちらかというとゆったりとしたメジャーなナンバーばかり並んでいるのだけど、これは多分彼女が子供の頃、家で親が聴いていたレコードに入っていた曲なのかもね。それが、濃密な自作詞の曲たちと並ぶと、何だか彼女の自宅で、彼女のお気に入りのレコードを聴きながら彼女の独白を聴かされている(笑)ような気分になってくるのね。筒美さんのきっちりと耳に馴染む完成度の高いメロディーが、またそれらの懐かしいアメリカン・ポップスと見事に溶け合っているのも素晴らしくて。
 それで、彼女の独白、それが不快かというと全くそんなことはなくて。穏やかに晴れた午後に、閑静な住宅街にある斉藤家のリビングでお茶を飲みながら、彼女の話を聞いてる、そんな感じ。ステレオからは古いレコードの曲が流れてるわけ。いかにも斉藤さんが考えそうなアイディアでしょ、これ。
 肝心な斉藤さんのウタは?といえば、独白作品らしく(笑)、ウタというより演劇が入ったシャンソンのような味わい。決して上手ではないけれど、もうそんなことは抜きのオンリーワンな魅力に溢れてます。透明感のある鈴の音のような歌声は健在で、やっぱりいつ聴いても心地いい。
 ところでこの作品のテーマのような感じのある「The April Fools」。この曲はジャック・レモン主演のロマンティック・コメディー『幸せはパリで』幸せはパリで-オリジナル・サウンドトラック-の主題歌だったのだけど、この映画、ダブル不倫の映画なのね。斉藤さんといえば、あのオザキとの不倫スキャンダルが思い出されるわけだけど、その辺も関係していることは多分間違いないようね。そうして聴いてみると、日本語バージョンの詞(もちろん訳詞は斉藤さん本人)がとても辛く思えてしまう。

 それでも もういいの
 とめられない・・・
 瞬間に恋をした
 あなたの眼差しに 私 全てを見た
 触れた手は告げた 時のおとづれ
 これはApril Fool 四月のあやうい罠
 それでも術(すべ)はない
 とらわれたら
 
 「The April Fools」
 (作詞:H.David、日本語詞:斉藤由貴、曲:B.Bacharach)

 それにしても、斉藤さんの作詞家としての才能、大したもんです。

★斉藤さん過去ログ。こちらもどうぞ。
青空のかけら
ガラスの鼓動
砂の城