今さらながら、マチャアキ・ソウルに瞠目〜『堺正章・しんぐるこれくしょん』

しんぐるこれくしょん 前々回の佐良さんに続いて、一部歌謡ファンの間で高い評価を得ているマルチタレント系歌手の代表選手のひとりを今回取り上げます。その人は、マチャアキ。そう、堺正章さん。
 「昭和喜劇の神様」と称された堺駿二の次男として生まれ、子役時代を経て、グループサウンズ(GS)ブームの中、1960年代にはザ・スパイダースのリードボーカルとして人気を博す。グループ解散後はソロシンガーとしていきなり「さらば恋人」が大ヒットして実力派歌手として歩む傍ら、コメディもシリアスもこなせる俳優としてもキャリアを重ね、また司会などのタレント業でも引っ張りだこの八面六臂の大活躍を続けて、今や芸能界の大御所として君臨するまさに“ザ・芸能界”みたいな人ね。
 俺としてはやっぱり子供の頃の公開バラエティ「ハッチャキ・マチャアキ!!」とか、PTAが顔をしかめた“カンチョ−マン”(顔の横で手のひらを合わせて掌を開いたり閉じたりしながら「カンチョ〜ピュッピュ!」というキメポーズが当時、子供たちの間で流行したのよね・・・ 笑)なんかを思い出すのだけど、何と言っても当たり役は水曜ドラマ「時間ですよ」の健ちゃん役。どこまでがセリフなのかアドリブなのか分らないような樹木希林とのカラミは最高でした。そう、マチャアキは僕らの世代にとっては、“「歌も歌える」バラエティタレント”というイメージだったのよね。ちょっと前の(90年代の)とんねるずに近い感じだったかもね。
 もちろん歌手としても、GS時代の「夕陽が泣いている」やソロでの「さらば恋人」「街の灯り」といった大ヒット曲での独特の哀愁を帯びたボーカルで実力は証明済みだったわけだけど、今回この編集アルバム『堺正章・しんぐるこれくしょん』を聴いて、そのボーカルの魅力に改めて感動しましたわ。
 このベスト・アルバムコロムビアレコードでの1971年〜1978年までのソロシングル22枚のAB面と、名盤の誉れ高い全曲筒美京平作・編曲による72年のアルバム『サウンド・ナウ!』の完全収録おまけつきという企画盤で、初期のマチャアキのシングルを含めて筒美ソングブックとしても楽しめる内容。筒美ファンのhiroc-fontanaとしては、聴くのが遅すぎた!と言えるくらい(笑)。そして実際、ホントにチョー感動(!)の名曲揃いのアルバムで、只今、サガラ兄貴を押しのけて俺の音楽プレイヤーでナンバーワン・ヘビロテ中。
 何よりね、1972年10月発売のアルバム『サウンド・ナウ!』をピークにしたその周辺の曲たちで展開する、筒美作品の音作りがカッコ良すぎで。これはまるでそのまま当時のモータウンフィリー・ソウルを聴いているような錯覚に陥るのね。堺さんのボーカルも、持ち前のリズム感の良さは言うまでもなく、ウェットで芯の強い声がレベルオーバー気味の録音で割れたりすると、こちらも予想外にソウルフルに聴こえてビックリなのだ。下手するとケロケロカエル声にしか聴こえない(失礼!)マチャアキの中に、こんな“黒っぽさ”を見つけた筒美先生はじめスタッフの慧眼には脱帽!でございます。
 スティービー・ワンダーばりのクールなメロディーとアレンジが光る4th「幸福への招待」、メロディーはバリバリ歌謡ポップスなのにフォー・トップスに聴こえちゃう筒美マジック・5th「運がよければいいことあるさ」、オシャレなエレピとメジャー・マイナーの美メロの絡みがたまらない7th「恋人時代」。筒美さんの手がけたシングルは「さらば恋人」の陰に隠れてチャートでは地味な成績だったけど、カップリングも含めてどれもカッコよくて粒揃いの名作ばかり。特にお気に入りはセカンド「青空は知らない」のB面「恋人なんかすてちまえ」。モータウンの弾んだリズムに乗せて「♪グッド・グッド・フィーリング〜」のリフレインばかりで聴かせるような曲で、ソウルフルなバックコーラスも、間奏とエンディングでのマチャアキのWowWow!とかYeah!といったアドリブ・コーラスも70年代初期のモータウンそのまんま。歌謡曲臭はまったくないR&Bの傑作です。おまけに歌詞は「男の子も女の子も あまるほどいるさ/そう いつの日か まわってくるよ/恋人なんかすてちまえ/グッド・グッド・フィーリング〜(詞:北山修)」だものね。相当イッちゃってます(笑)
 そうそう、筒美作品以外にも職人・山下毅雄作曲のホノボノ系ワルツ「涙から明日へ」、鈴木邦彦作曲の優等生的ポップス「まごころ」、「街の灯り」路線で中村泰士の美メロが光るバラード「たそがれに別れを」、堺さんの軽味を活かした浜圭介のオシャレなポップス「あじさいの詩」など、歌謡曲黄金時代ならではの歌謡ポップスの佳作が数多くあって、70年代後半は少し歌謡曲のドロドロ臭が強くなるものの、総じて品良く大人が聴くに堪えうる質の高い作品が並んでいるのは佐良さんと同じ。
 それにしても、堺さんの曲がこれだけの内容を誇りながらあんまりチャートを賑わせなかったというのはひとえに、「マチャアキ」キャラクターが拡大しすぎて、本来ターゲットにすべき「アフター・スパイダース層」の大人たちが思うほどについてこなかった・・・というところにあるのかしらね、もったいない話ね。
 さて、↓これを聴いて少しでも「え!?何これ!?」を感じた人は、是非このアルバム、聴いてみてね。楽しめますよきっと。