「自分を見つめて」小泉今日子

Kyon30~なんてったって30年!~
 今回は久々のキョンキョン。なんたって30周年ですもの。
 それにしてもね、女優として成功した元(アイドル)歌手と言えば、いしだあゆみさんをはじめ風吹ジュンさんとか夏木マリさん、片平なぎささん、浅野ゆう子さん、桜田淳子さん(途中で戦線離脱しちゃったけどね…)エトセトラ、数え上げればキリがないほどにいるけれど、そんな中でデビュー30年経過してなおテレビドラマの主役を張れちゃうキョンキョンって、ナニゲにスゴイんじゃないかな?なんて思う。(あ、夏木マリさんがNHK朝ドラのヒロインに抜擢、でしたっけ。忘れてた。笑)
 いずれにしても、彼女にはいまだにドラマ主演に抜擢可能な「存在感」があるということ。80年代アイドル全盛期にアイドル女優として一世風靡した薬師丸さんや知世さんでさえ今や主演としては声が掛かりにくい位置に退いているのに、なぜキョンキョンにはそれが可能かと言えば、やはりその「存在感」としか言いようがないような気がする。
 みんなが目を点にした「カリアゲ」ヘアとか、お仕事としてのアイドルを宣言したかのようなシングル「なんてったってアイドル」リリースをはじめとして、Kyon2としてのカゲキな12インチシングル発売や、ある時は魚拓ならぬ“人拓”にチャレンジしたり、数々のバンドとのコラボやハウス・ミュージックへの挑戦、“ナツメロ”カバー・アルバム発売など、アイドル時代のコイズミはプロダクションやギョーカイ、そしてファンにまで数々の挑戦を仕掛けてきて、しかしそれらはあくまで自らしっかりと「ワタシならここまでやっても大丈夫だよ!」という計算をした上での挑戦のようで、清々しかったのよね。
 たぶんキョンキョンは、そんなふうにして箔をつけたかったのだと思う。自らのイメージを少しばかり犠牲にすることでね。つまりは一度は自ら承知の上でお縄になっておいて、のちのち「親分、お勤めご苦労様でした」みたいに回りの人に言われたい、みたいな。わかるかしら、この感じ。コイズミ組を守るために、敢えて臭いメシを食ってくるわよ!みたいなね。やっぱり彼女の出自(少しヤンキー入ってるカンジね)が、そうさせたんじゃないかな?なんて思うのだ。ただそこには彼女なりの「男気=美学」が貫かれているから、決してみっともなくなったり下品になったりしない。だから、清々しいのよね。
 そして90年代、まるで時代を走るドラゴンの鼻先にチョコンと乗っかって、軽々と時代を駆け抜けていくように見えるキョンキョンがいたのね。CM女王の名をほしいままにしながら、自作詞の「あなたに会えてよかった」をミリオンヒットさせて、文学的にも非凡な才能を発揮。その後も歌手として小林武史をはじめ新進実力派ミュージシャンとの共演で音楽的な枠を広げながら、女優としても数々のテレビドラマに出演してキャリアを重ねていったわけね。その後に、印象的だった映画版「踊る大捜査線」の犯人役(1998年)とか、名作ドラマ「すいか」(2003年)ではやはり犯罪に手を染めてしまう主人公の友人役だとか、「空中庭園」(2005年)では家庭崩壊に直面するエキセントリックな主婦役など、どちらかと言えばシリアスな“汚れ役”的な部分でその個性をいかんなく発揮していくことになるわけで。女優・コイズミの誕生ね。アイドル時代から少しづつイメージ破壊を加えながら、いろいろとカゲキな事に挑戦してきたからこその、よりリアルな存在感が歳を重ねることで活きてきている。そうなのだ、きっと。
 
 でもね。俺は前にも書いたけど、そんなキョンキョンの「ウタ」がやっぱり大好きでね。特に、ボーカルにもサウンドにもすっきりとした軽みが加わった90年代の曲たちが好き。「La La La…」「My sweet home」「優しい雨」・・・。いま聴けば、それはバブル崩壊後でもまだ救いのあった、どこかノホホンとした90年代特有の“軽み”なのかもしれないけれど、当時まだ若くてノリノリなキョンキョンのスベスベ声を聴くだけでも、その根拠ない軽さが勝っていた90年代の空気感が強烈に蘇ってきて、何だか異常に懐かし〜い!という気がするのよね。
 でもふと気付けば2012年。時代は変わったわ、ホントに。
 さて、タイトルの「自分を見つめて」は、92年6月発売のコイズミ33rdシングル。自分を見つめて (MEG-CD)最高位4位、売上げ22万枚。そのひとつ前のシングルが「あなたに会えてよかった」だけに、その陰に隠れてまるで地味なシングルなのだけど、俺、この曲の詞(作詞:小泉今日子)に当時、随分と励まされたのよ。「時には弱くてダメな自分の事 素直に見つめて」「両手を広げて私を待っている 未来を信じて」。そして「Ah〜 生きていればきっと いいことが待っているわ」だものね。キョンキョンの詞はあまりにストレートで素直すぎるのだけど、そんなシンプルなメッセージこそが、弱りきって自信喪失していた孤独な20代のゲイ青年には、必要だったのよ。(否、今でも必要なのかも。実は(苦笑)。)
 
 さて、何はさておき、祝!キョンキョン30周年。