『Love』〜岩崎宏美

Love (初回限定盤)

Love (初回限定盤)

 今回は太田さんの永遠のライヴァル(敵キャラ?笑)、岩崎宏美姐さんの新譜のご紹介。
 実は太田さん推しのこのブログ、ナニゲに宏美姐さんの記事もいつの間にたくさんエントリーしておりまして(こことかこことかここここここ)。これは70年代アイドルカテゴリーでは百恵さん、淳子たん、キャンディーズと並んで取り上げ回数が多いわけでして、そう、私はもちろん太田の裕美さんだけでなくこちらイワサキの宏美さんも大好きなのです(微笑)。
 そんな彼女の4年ぶりのオリジナルアルバム発売なわけだけど、正直、聴くまでは太田さんの新譜ほどのワクワクはなくて、それは太田裕美さんが大好き、というのを抜きにしても何だか不思議だったのよね。
 彼女の場合、とにかく“歌の上手い歌手”といイメージが強すぎて、それが近年のライフワーク「Dear Friends」というカバーアルバムシリーズに結晶しているのは確かだけど、どこか盤石過ぎて面白みに欠けるという印象は否めないのね。これって私だけの印象じゃないでしょ?それはたとえば由紀さおりさんの新譜『SMILE』が内容の割に話題にならなかったのと同じなのかな?なんてことも思うのだ。つまり、いくら歌が上手い歌手であっても話題性や収録曲のインパクトがなければ、いくら聴いても引っかかりがなくて共感できそうにないな、みたいに思えてしまう。だから、余程のファンでない限り、なかなか手が出しづらいのね。事実、宏美姐さんの場合、オリジナルよりも「Dear Friends」シリーズの方が売上げ的に安定していたりして、それは歌謡曲やJ-Popの中から選りすぐりのイイ歌をアノ「岩崎宏美」がどう歌うか、という一点が受けているからこそ、なのだと思ったりする。
 なんてウダウダ書いてしまいましたけど、このニュー・アルバム『Love』、期待に反して(ゴメンナサイ 笑)とってもイイです。
 俺ね、岩崎宏美の弱点のひとつは、何となく「歌唱力」に頼りすぎてニュアンスが後回しなところかな、なんて思ってたの。だから、オーソドックスなポップスをレコーディングしたものなんかは特に、サラっとしすぎていつの間に耳を通り抜けてしまう感じがしていたの(ご本人のさっぱりと姉御肌な性格そのもの、なのかもしれないけどね 笑)。でも今回の新譜、たとえ聞き流していていても、びっくりするくらい、歌の世界がズンズン心に響いてくる。これ、何が変わったのかしら?と考えたら、もちろん彼女自身の人生経験が声に表れていることもあるけれど、何より歌の中の「詞の世界」を楽しんで歌っているのだな、とそんな気がした。
 阿久悠の作りこまれた詞と、筒美京平ディスコ・サウンドという強力なバックアップでデビューした彼女、思えばそれは類い稀な歌唱力、正統派歌手としてはそれだけで勝負できるところを敢えて変化球で魅せて更にその存在感をアピールする、高等テクニックだったのではないかと思うのね。「歌唱力」というインパクトを敢えて全面に出さない売り方。でもそれは、岩崎宏美という歌手にとっては、上質のポップスを提供するポップス歌手という枠の中で、詞世界の表現を後回しにして「ポップスを完璧に歌うこと」を常に強いられることだったのかもな、なんて。そんな気がしたのだ。
 今回のこのアルバムで、自身が1曲1曲、愛着を持って歌う11曲(ご本人が曲解説も担当)には、出会った曲の世界観に心から共鳴し歌おうとする「歌手・岩崎宏美」の姿が見えてくる。だから、言葉の伝わり方が尋常じゃない。

 失くしたフリした「ロマンス」
 探し続けたあの日の「未来」
          「抱きしめてよ、ミラクル」 詞:斎藤 誠 

 なんて曲もあって、思わず、ニンマリ。
 それ以外にも「プロポーズのとき」(作 光田健一)の、人生のパートナーを見つけた瞬間の至福感の見事な再現に涙し、中村中 作「時の針」の切なさに胸を締め付けられ、はたまた大江千里くん作「ベリー」のキュートさに思わず心踊らされ、姐さんの“生き神様”、さだまさしの詩作「糸遊(かげろう)」にはポップスとしての見事な完成度に唸る。親友・マチコたんとの息の合ったデュエットもあったりして、収録曲はとにかくどれも、充実の仕上がり。
 宏美姐さん、参りました。