セイコ・アルバム探訪6〜『SOUND OF MY HEART』

SOUND OF MY HEART(DVD付)
 1985年8月15日発売の12枚目のオリジナル・アルバム。
 でもこの作品をオリジナル・アルバムとして数えるセイコ・ファンはどのくらい、いるのかしらね。。。
 俺の場合、この作品の発売当時はまだ洋楽も良く聴いていたから、「なんだ、このダサイ英語の発音は!」なんて罵倒しながら。。。実は。。。良く聴いていたのだ(笑)。
 たしかにセイコさんの英語はひどいし、とにかく英語の発音に精一杯で、肝心な歌の情感も後回しな感じだし、で80年代の聖子さんの傑作アルバム群の中でみれば評価を低くせざるを得ない作品かも。しかし一方で、ジョン・ベティス、マイケル・ボルトン、マイケル・センベロ、ダン・ハートマンら、それぞれに全米トップテンヒットを放った経験のある、そうそうたるメンバーをライターに迎えた曲のクオリティは、当時の全米ポップアルバムチャートを賑わしていた作品と比べても遜色ないものに思えたし、デビッド・マシューズのアレンジも最先端のサウンドだったし(オケだけ聴いていればの話だけど 笑)。何せ、当時俺が一番好きだったビリー・ジョエルを手がけたフィル・ラモーンのプロデュース!だもの。それだけで俺としてはもったいなくてね。当時フィル・ラモーンが、この作品を手がけるに当たって勉強のために(?)聖子のアルバムを聞かされて(苦笑)、“とてもボーカルに集中力があって魅力的なシンガーだ”とかなんとか言ったとか。それをラジオで聞いて、ファンとしてはちょっと嬉しかったのを覚えている。このあと、フィルがプラシド・ドミンゴのアルバム『ゴヤ・・・歌でつづる生涯』に聖子を起用してソロで1曲歌わせたりもしたわけで、あのときの彼の発言も、決して社交辞令ではなかったように思うのよね。
 そう。何やかや言って俺、結構好きなアルバムなんです、これ。
 これだけのメンツを揃えて、ニューヨークのヒット・ファクトリースタジオで録音。派手にプロモーション・ビデオまで作って。でも最終的には日本国内だけの発売で終わっちゃって(全米デビューは1990年までおあずけ)。おまけに聖子さんは発売直前に結婚休養に入っちゃったりして(涙)。お金が余ったからたくさん豪華な料理を頼んでおいて、結局は食い散らかしただけ、みたいな。何とも中途半端で独特の罪悪感が残るまさに“バブルなアルバム”なのだけど、今となっては、世界の壁は厚いにもかかわらず儚い夢に向かってがむしゃらに頑張ってた当時のセイコちゃんに、根拠のない自信と熱狂で大騒ぎしていた、バブル前夜の日本人の姿を重ね合わせて、どことなくセンチな気分にさせられてしまうアルバムでもあります。な〜んて、ちょっとオーバーかしらね(笑)。
 帯コピー:聖子からSEIKOへ、いま舞台は新次元。
 確かに、英語の発音は無視して(笑)彼女の声を「音」としてだけで聴けば、あらあら、はっとするようなカッコいいフレージングがあちこちに登場したりもしていて「ひょっとして、いけるんちゃう?」みたいに思える部分もありで。。。面白いアルバムです、やっぱり。ちなみにオリコンアルバムチャートは最高2位。売上げ21万枚の成績は、さすがと言うべきか。

  • DANCING SHOES(S.Kipner&P.Bliss)

 打ち込みとシンセのサウンドがいかにも80年代風。当時、サビでシャウト気味に「♪heart beat in rhythm」と歌う聖子さんの声がマジかっこよく思えて。俺、最初は興奮して友達に「凄いよ、聖子。いけるよ!」と喋りまくったのよ(冷汗)。後の世間一般のあまりにしょっぱい評価には思わず知らん顔しまくった苦い思い出が。でもこの曲の聖子さん、個人的に本当に頑張ってると思う。12インチシングルは日本のチャートで1位に。

  • LOVE IS NEVER OVER(Dan Hartman)

 それなりにカッコよかった「DANCING SHOES」のあと、この曲を聴くと思わずズッコケてしまう。「ネーバ・オーバー」て、セイコたん、まんまカタカナ英語(涙)。現地人のバック・コーラスをよく聴いて「er」の発音、勉強してね、みたいな(笑)。ゴスペル調コーラスが荘厳な雰囲気を醸し出すミディアムの佳曲。

  • IMAGINATION(M.Sembello,M.Boddicker,J.hey&P.Ramone)

 ハードなリズムがカッコイイ、ちょっと粘っこいディスコ・サウンド。ハスキーなセイコさんの声がなかなかセクシー。健闘してます。映画「フットルース」の挿入歌「マニアック」というヒット曲を持つマイケル・センベロがソングライターに名を連ねている。

  • A FRIEND LIKE YOU(Paul Bliss)

 アップテンポの軽目のポップス。サビ前のヴァースのメロディーでセイコさん、ウィスパー気味のファルセットに挑戦して、90年代の全米発売盤 『Was It The Future』のボーカル・スタイルの片鱗を聴かせる。

  • TOUCH ME(John Bettis&S.Levay)

 前曲に続いてこちらもメジャー調のキャッチーなポップス。確かバレーかサッカートーナメントのテーマソングとして、CMでも結構流れてました。セイコさんの当時の絶好調な声が明るいメロディーに気持ち良く乗って、多少発音は気になるもののとても自然に聴ける。

  • SUPERNATURAL(Mark Hudson&Bob Caldwell)

 かなりアップテンポのタテ乗りディスコ・ミュージック。ちょっとエルトン・ジョン「I’m Still Standing」に似てる。こちらはセイコちゃんのカタカナ発音がキツくて。「♪スーパーなっちゃう」ってどういう意味よ(笑)?バッキングとあまりにチグハグなボーカルで、NYのスタジオでひとり、立ち往生しているセイコたんがちょっとカワイソウになってくる曲。残念!

  • CRAZY ME,CRAZY FOR YOU(A Goldmark&P Galdston)

 バラード。ボコンボコンという80年代特有のキイボードの音色が、マドンナの「Crazy For You」を明らかに意識している感じ。セイコさんにこの曲はわかり易かったと見えて、サビでは得意のハスキーな喉声で、思いっきり情感を込めて「♪CRAZY ME〜〜」と歌ってます。彼女の個性が生きて、なかなか魅力的なボーカル作品になっていると思う。

  • SOUND OF MY HEART(T.,G.,&N.Sadler)

 イントロはヒューイ・ルイス&ニュースみたい。シンプルなロック調のポップスで、俺この曲のサビが大好きなのよね。英語の発音はめちゃくちゃだけど、聴く者をねじ伏せるような勢いのあるボーカルも魅力の1曲。

  • MIRACLES TAKE A LITTLE LONGER(Paul Bliss)

 ちょっとミステリアスなマイナーメロディーが光る、佳曲。9曲目になるともう、聴いてる方も耳が麻痺して、発音なんてどうでも良くなってきちゃう(笑)。いかにもなアメリカン・ポップスの美メロを歌う、若きセイコさんの素晴らしい声を聴いているだけで、何だか満足してしまうのよね。

  • TRY GETTIN’ OVER YOU(Michael Bolton&Doug James)

 ラストはバラードの帝王・マイケル・ボルトンのペンによるバラードの名曲。90年の全米デビュー盤『SEIKO』でも再録で収録された。サビではしっかりしゃくり上げて、セイコここにあり、を主張してます。やや幼さはあるものの、情感のこもった堂々たるボーカルでセイコさん大健闘、グッジョブ!
 
 そうか、わかった。この作品、あくまで日本人向けの「懐かしい80年代のアメリカっぽい」オリジナル・アルバムとして聴けば、すんなりいくということなのね!