リトル・トーキョー~中島みゆき「夜会」vol.20

 実は先日、インフルエンザに罹って外出禁止になったせいで、楽しみにしていた久々のユー●ン・naeba行きがポシャってしまって。。。ショックはショックだったのですが、さすがはプラチナチケット、すぐワタシの代わりの参加者が見つかって(苦笑)、幸いチケットは無駄にならず、「楽しんできてね~!」と友人たちにメールを打ちながらも、涙ぐむワタシがいたのです。

 そう、これも何気ない日常の「ズレ」を大きく感じた瞬間(前の記事の流れで・・)。

 しかし実は、そんなナミダさえすぐ乾いてしまうような、次のイベントが控えていましてね。続く記事はそちらが主題。
 それが「中島みゆき「夜会」VOL.20~リトル・トーキョー」への参加でございました。

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 初めての夜会。それも20回目となる記念公演。
 まず、初心者の私には、記念公演だったことはラッキーだったのかもしれないと。そう思うのだ。なぜなら、最近の夜会は、夜会のみで歌われるオリジナル曲(それらは何枚もCDになっているけれど、正直言ってCDを聴くだけでは難解な曲ばかり)で構成されていたのが、20回目になる今回は、歌われた曲の半分ほどは既出曲だったので、初心者の私にも、作り込まれた、クセのある(?)独特なその世界にすんなりと入りこめたような気がするのだ。
 テーマである「リトル・トーキョー」とは、“東京にはないトーキョー”であり、“世界じゅうによくある幻の場所”であり、“帰れない国の代わりにつくりだす夢の国”とのこと。ステージではこの“主題歌”が何度も呪文のように繰り返されるなか、私たち観客も、あるようで実際には存在しない「リトル・トーキョー“幻の場所”」に否応なく引きずり込まれていくのだ。
 舞台となるのは、北海道の山々に囲まれたホテル「リトル・トーキョー」。そのウラには、みゆきさんの故郷である北海道という土地が抱える「領土問題」や「隣国による不動産買占め」などが想起されたりもするわけだけど、そんな難しい現実よりも、ここはシンプルに、みゆきさんの作り出す迷宮(メイズでありアメージングでもある)に自らを放り込むのが正しかったようだ。
 「夜会」はたしかにミュージカルでも、もちろんただのコンサートでもない。強いて言うなら、みゆきさんの楽曲を別な形で楽しむために用意周到に準備された演出空間、とでも言うべきか。あくまでもストーリーは「背景」であり、それを追うというよりも、ストーリーという背景の中でさまざまな色を帯びて登場する「みゆき作品」を、耳と目とイマジネーションで楽しむ。それが正解なのだ、と。
 実際に、ご本人の歌唱の素晴らしさはもちろん、共演者達が歌う中島みゆき作品になぜか、心揺さぶられたワタシ。この人は自身が優れたパフォーマーであると同時に、やはり唯一無二の作曲家なのだ、と改めて思った。日本人の琴線に触れてやまない、どこか郷愁を感じさせるメロディーに、時にヤスリのように人の心をザラリと泡立たせる歌詞、そんな彼女の曲だけが持っている特別な「説得力」は、どんな台詞よりも演出よりも、確実に心を揺さぶる何かがある、そんな気がした。夜会では歌手たちはマイクを持って歌い演じるところがミュージカルとは一線を画すところであって、そこが、この舞台はあくまでも歌が主役であることを強く主張している証であると思うし、実際、舞台で歌われる中島みゆきさんの曲たちは、本当に力強い。“夜会ファミリー”石田匠さんのパフォーマンス(「BA-NA-NA」「テキーラを飲み干して」)で魅せた男歌のハマり具合も印象的だったし、特に今回のゲスト演者、渡辺真知子さんは、想像していた以上にみゆきさんと相性が良いようで、彼女が歌うみゆき節(「思い出だけではつらすぎる」「二隻の舟」など)は、さりげなくいつの間に身体に染み入って心をぎゅっと鷲掴みされているような気がして、思わずハッとさせられることもしばしば。。。(すばらしかった。)
 そして大好きな曲であり夜会シリーズのテーマ曲でもある「二隻の舟」について感じたことがある。今回もクライマックスで歌われたのだけれど、曲としての底知れぬ深遠さに改めて気づかされ、思わず鳥肌が立った。ここでは、後半の畳みかけるようなメロディーを、複数の歌手たちが立ち代わり歌う。

 ♪時流を泳ぐ海鳥たちは むごい摂理を囁くばかり

 ♪お前の悲鳴が胸にきこえてくるよ

 ♪難しいこと望んじゃいない

 ♪風は強く波は高く闇は深く星も見えない ・・・

 それぞれのパフォーマーのエモーションが、これでもか、と次々に押し寄せてくる。まさにそんな感じ。これはやはり、「夜会」ならではの体験。そしてまるでオペラのように様々なモチーフに彩られたこの曲こそ、みゆき版「ボへミアン・ラプソディ」なのだと、独り納得した、俺(苦笑)。
 赤坂ACTシアターの観客席は、独りで観に来ている中高年層が多くて(俺もそのひとり)、いかにも「中島みゆきの夜会」というべき雰囲気。決して安くはないチケットでもあり、ディープなオトナのみゆきファンでないとなかなか手が出せない、そんな意味でも「プラチナチケット」なのだろう。
 でもこれは、やはり生で体験すべきだし、体験出来て、良かったと思う。 

夜会工場VOL.2(Blu-ray Disc)

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