映画館で観た『ROMA』

『ROMA/ローマ』オリジナル・サウンドトラック

 『ROMA』。大型連休の終りに、鑑賞できました。

 こちら、動画配信サイト“Netflix”のオリジナル作品ということで、時代にすっかり乗り遅れたワタクシメ、観たいとは思っていたものの当面は鑑賞を諦めていたのですが、銀座の単館系映画館で上映されていることを知り、出掛けて参りました。

 先のアカデミー賞で作品賞こそ逃したものの、監督賞、外国語映画賞、撮影賞に輝いたこの作品、都内でも3館のみ、それも最終回のみの上映ということで、座席は満席。(思いのほか年配者が多かったのは、やはり「時代遅れ」世代だから?苦笑)

 ストーリーも、音楽も、出演者の演技にしても、実に淡々とした印象の映画ではありますが、監督のアルフォンソ・キュアロン氏に近い年代のワタシにとって、監督の実体験に基づいたストーリーと言われるこの作品、何だかとても“沁み”ました。

 モノクロで、BGMもごく控えめに長回しを多用した映像は、そのまま自分がまるで1970年のメキシコに舞い戻ったように感じさせてくれるのです(勿論、私がメキシコにいたことはありませんが・・・(笑))。決して説明的ではなく、カメラの目線で観た、そのままのエピソードを切り取ったようなシーンが続くのです。

 しかし、それらシーンがすべて、実は計算され尽した美しい構図ばかりで成り立っていて、だからこそいつの間に、ワタシたちの脳ミソが無意識に脚色しまくってきた、あの頃の「美しい」思い出たちと見事に重なり合っていることに気付き、モノクロであるのは、観客それぞれがそれぞれの色を付けて(つまりは脚色して)あの頃を思い出すには必要不可欠な演出でもあるということがわかってくるのです。

 淡々としてはいるものの、かつての日本映画やイタリア映画のような、少しとぼけたような不思議な笑いも所々散りばめられていて、そのあたりもノスタルジアを呼び起こす要素なのかも知れません。

 この作品の主題は、一言で言えば主人公である家政婦が見た、雇い主の「家族の崩壊と再生の物語」ということになるのでしょうか。家政婦はその家族の「崩壊」に巻き込まれ、しかし「再生」の場面ではより違った形でそれに加わっていくのです。そしてそこに描かれているのは、人種や身分を超えた「一緒に暮らす者たちの絆」であり、これは面白いことにアカデミー賞外国語映画賞を争った「万引き家族」と共通していたりもします。

万引き家族

 ワタシ、前にも書いたことがあるのですが、実家が床屋をしておりまして、子供の頃はまだ、福島から集団就職で上京して我が家に住み込みで働いていたお姉さんたち3人が一緒に暮らしていまして、それこそこの映画にあるように、今日はどのお姉ちゃんと一緒に寝ようか、などと毎日楽しみにするくらいに彼女たちが大好きで懐いていたんですね。(その後、彼女らのうち二人はお嫁に行ってしまい、いまはどこにいるのかわかりません。一人はその後も長く家族として一緒に過ごしたのですが、突然帰らぬ人に。その時ワタシは人目もはばからず大泣きしました・・・。)

 ですから、この作品の中で雇い主の子供たちが主人公のメキシコ原住民系の家政婦を姉のように慕っていることや、家族全員がテレビを見ている輪に主人公が自然に加わる姿などは、ごくありふれた懐かしいエピソードとして観ることが出来たのです。もちろん、一緒に住んでいた叔母(床屋の主人でした)や両親が、従業員である彼女たちに小言を言ったり、(子供から見ても)理不尽に当たり散らす場面もありましたが、やはりこの映画のシーンのように、皆で囲む毎日の食卓には、いつも笑顔がいっぱいあったように記憶しています。 

 少しメランコリックになり過ぎましたね・・・話を「ROMA」に戻します(汗)。

 メキシコ人の家政婦が主人公であるこの映画がアカデミー賞で「ウケた」ことが、アカデミー特有の、マイノリティへの過剰な配慮だとして捉えてしまうと、少々視野を狭めてしまうような気もします。やはり、こうした「同じ屋根の下」「人間同士の心のつながり」をごくさりげなく映している一方で、たとえ夫婦や同郷の者でも簡単に繋がることが出来ないエピソード(この映画でそれは「男女関係」なのですが)、それこそが本来の家族の崩壊の引き金になるわけで、そのあたりをきちんと描いているところも評価すべきと思います。

 そして何より、繰り返しにはなりますが、この映画のカメラワークの美しさは、出色です。

 冒頭は、主人公の家政婦がせっせとブラシで洗う「床」に写る、壁に囲まれた中庭の空。目線は「下」です。床に写った空は、バケツで流した水が押し寄せるたび、濁った泡に覆われ、形が歪むのです。そしてしばらくすると水は穏やかに落ち着いて、また四角く切り取られた空の形が、戻る。そこを飛行機の影が横切る。

 エンディングでは、主人公が洗濯物を干すために屋上に上がるシーンで終わります。主人公が登って行った鉄の階段をカメラが見上げると、冒頭で床に写っていた中庭の空が、美しく晴れ渡っている。ここでの目線は「上」。そして、ゆっくり、清々と横切る飛行機の姿が。

 こんなに美しく印象的なプロローグとエピローグ、最近の映画では観たことがありません。

 ちなみにタイトルの『ROMA』は、舞台となるメキシコシティにある、コロニア・ローマという街の名前であるとともに、逆さに読むと『AMOR』になるということ。スペイン語で「愛」という意味のようですね。

 自信をもってオススメしたい作品です。

 

(そうそう、この作品、劇場公開ではR-15指定なのですが、ネタバレさせてしまうと途中、青年の見事なオールヌードシーン(それもフロントショット!です)が出てきまして、そこではやっぱりワタシ、ドキドキしてしまいまして・・・思えばそのあたりも何だか、ウブだったあの頃を思い出して、どこか「懐かしい」感覚でございました。(笑))