「bless you」

hiroc-fontana2006-05-23

 新曲なので、80年代アイドルのカテゴリーでいいのかどうか、迷いつつ。
 「bless you」。この聖子は、いい。とてもいい。
 注意深く聴かない限り、定番の聖子バラードに聴こえてしまうためか、4月26日に発売されてオリコン最高位29位を記録したあとは早々とチャートから消え去ってしまったが、それではあまりに惜しい1曲であった。
 この歌の世界には、大好きな(ステキな)アナタもいなければ、恋するワタシさえもいない。ただ「君(きみ)」という、オンリー・ワンの大切なひとがいるだけ。いわゆる一人称で語られる(エゴイスティックな)愛ではない。人が人を想うという、男女の恋愛さえも遥かに超越した、大いなる愛。「聖子」という無垢で気高い名を与えられた彼女が歌ってこそ相応しい世界が、この歌にはあったのだ。
 そしてこの大いなる愛を歌う彼女の声は、滑らかで研ぎ澄まされて、まるでシルクのようだ。40代という年齢相応の、柔らかさにも満ちている。そんなシルキー・ヴォイスを耳元で囁くように聴かせるクリアな録音、ピアノ主体の穏やかなアレンジも素晴らしい。
 そして特筆すべきは、彼女の、この集中力。
 ちなみに、この「bless you」。歌詞には決して万人に訴えるような卓越した表現は見られない。ストーリー性もない。簡単なキイワードが積み重ねられた詞世界である。しかし、一旦彼女の声が発せられるや否や、そこには活き活きと、そして深い愛の世界が広がっていくのだ。

だから そばに居て

 か細い高音が、ファルセットに変わる瞬間の、微妙な一瞬の声に託された、愛するひとへの強い想い。

いつも、きみを想う。I bless you。

 ひとつひとつの音、言霊(ことだま)を、美しい発音で、慈しむように歌う。「おもう」というフレーズの、「お」の音にこぶしをつけることによって、より「想う」気持ちが強く表現されている。こんな、さりげないテクニックを随所に発見できる喜び。
 たぶん、国内向けのシングル曲で聖子自身が携わっていない作品としては、97年の「哀しみのボート」以来だ。ここには、他者から与えられた作品に自らの命を吹き込むという、歌い手本来の使命に嬉々として挑む彼女がいる。歌手として与えられた天賦の才能を、余すことなく表現していかねばならないという、使命感のようなものさえ感じさせる。もしかすると彼女は、また新たな地平に到達したのかもしれない。