山下達郎「いつか晴れた日に」

hiroc-fontana2007-09-08

 ちょっと前に竹内まりやさんのことを書いたけど、今回はダンナの山下達郎サンです。
 俺が最初にタツローさんを知ったのは1980年の「Ride on time」。カセットテープのCM(確かご本人出演)で耳にして、メジャーセブンスコードがバリバリなそのメロディーのセンスにびっくりした記憶がある。数年前にドラマ主題歌か何かでリバイバルヒットしたけれど、20数年前の曲でも現役でヒットしちゃったわけだから、それだけ完成度が高かったということなのかもね。
 もっともタツローさんの場合、究極の“ザ・定番”ソングでもある「クリスマス・イブ」なんかがあるくらいだから、もともと時代を超えて聴き継がれる、匠の技に近いような音づくりに長けた人なのだ。音に対する拘りようはファンなら誰でも知っていることだし、そういえば『アルチザン(職人、の意)』なんてタイトルのアルバム作ってるしね、音の職人だぜオレは、なんて自分から宣言しちゃってるわけよね。
 タツローさんといえば、この曲もそうだけど、CDジャケットにアメリカのブリキオモチャなんかを使っていたり、「僕の中の少年」というフレーズが何度も出てきたりして、「何歳になっても、少年の遊び心を忘れないよ」的なメッセージが色濃く出ている気がするのよね。スタジオに籠って音をいじくりまわしていること自体、楽しいことには我を忘れて没頭しちゃう少年っぽさの表れなのかもしれないけど。
 タツローさんは1953年生まれの54歳。同じ世代では、サザンの桑田さん(56年生まれの51歳)なんかがいるけど、桑田さんもヤンチャさをいまだにキープしてるし、思えば今の50代ってのは「子供の心を残していることがカッコいい」と胸を張って主張できる初めてのオトナたちなのかもしれないな、なんて思う。昭和のオトナはもっとオトナ「らしさ」を求められて窮屈だったはずだ。(あ、そうそう、コドモ総理の安部くんもナニゲにタツローさんたちと同世代だったりするわけだよね。納得・・・)でもね、ただそれが「自分のカッコいいコダワリのある生き方を見てくれ」的になっちゃうとちょっと鼻についちゃったりもするのよね。メディアによく出てくるビームスの社長とかさ。正直、俺にはタツロー・まりや夫妻にもどこかそんな「鼻持ちならない感」が感じられちゃって、いつも批判的なことばかりを書いちゃうんでね、今日は少し自制しようと思っていたりする(笑)。
 閑話休題、「いつか晴れた日に」は、職人・タツローさんが1998年にリリースした珠玉のポップ・ソング。オリコン最高位は15位で、あまりヒットしなかったけど、この辺がタツローさんらしい、というか。作詞は松本隆氏。松本さんはタツローさんの4つ年上の58歳(なのね!)。この曲の詞にもうるさいくらい「あの頃の少年に会おう」というフレーズが出てくることからすると、やはり前述したような世代感は一緒なのだろうと思うが、この作品では「今という時代の生き辛さ」と「嘗て僕たちが持っていた純粋な心」との対比が見事で、ただ単純に年齢を重ねた男のカッコよさ、で終わっていないところが松本さんらしくていい。

雨は斜めの点線
ぼくたちの未来を切り取っていた
  (詞:松本隆

なんて、おもわず「お上手!」と膝を叩いちゃうよね。
 そしてそんな印象的な詞を際立たせるのが、タツローさんの紡ぐメジャー・マイナーの美しくも隙のないメロディー、そして何と言っても透明感のあるサウンドだ。アコースティック中心のシンプルなアレンジながら、ボーカルを含めてすべての音が、驚くくらいクリアに前に出てくるこの曲。イントロの、ギターのコードの爪弾きから、独特の静謐で澄み切った空気に包まれる。空気が澄み切っているからこそ、切なさがストレートに心に沁みてくる。この空気感が、この曲の最大の魅力なのだ。
 音の職人・タツローさんによる5分間のマジック。俺の宝物ソングなのです。