セイコ・ソングス12〜「凍った息」

 今朝、窓のカーテンを開けたら、一面の雪景色。東京では久しぶりの積雪です。そこでこの曲を選びました。
 「凍った息」。1987年11月発売のシングル「PEARL-WHITE EVE」のカップリング曲。作詞・松本隆、作曲・大江千里、編曲・井上鑑。A面「PEARL-WHITE EVE」とともに大江千里が紡ぐ上品で美しいメロディーが光っている。以前にも書いたが、大江千里メロディーと聖子さんの清楚な声の相性はことのほか良く、彼とのコラボレーションは今回紹介したシングル両面の2曲のほか、アルバム『Strawberry Time』に収録された「雛菊の地平線」を加えた3曲だけであるにも関わらず、数え切れないセイコ・ソングスの中でもひときわ輝いている印象があって、すべてが宝石のような気品を放っているような気がする。特に「凍った息」は、そのタイトル通り、透明感のある聖子さんの声が空中に放たれたそばからダイヤモンドダストのようにキラキラと煌めくような印象を持つ、美しい曲だ。

 真冬のテニス・コート 足跡ひとつないの
 木枯らしの泣き声をベンチで聞くだけ
 ラケットを手に走る あなたの影が見える
 あの夏のきらめきが雪に眠ってる

 聖子さんの曲の中で、続編が作られているものがいくつかある。88年に発表されたアルバム『Citron』収録の「続・赤いスイートピー」がその代表例だが、それ以外にも85年のアルバム『Windy Shadow』の中の1曲「今夜はソフィストケート」は同時期のシングル「ハートのイアリング」の後日談という設定らしいし、聖子さん本人作詞の「想い出の“渚のバルコニー”」なんてのもある(これは、やめて欲しかったけど・・・笑)。この「凍った息」の詞を読んでみて俺が感じたのは、この曲は82年に発表された「レモネードの夏」(シングル「渚のバルコニー」のB面)の続編ではないか、ということだ。「凍った息」の1コーラス目の後半。

 人は知らない間に 傷つけてることがある
 パリに発つと聞いて 急に態度冷たくした
 遠く離れていれば 心も冷えてしまう
 サヨナラを言われる前に
 私から告げたのよ

 一方「レモネードの夏」では、もう恋する気も無い、と強がる主人公が言う。

 時が消した胸の痛み 忘れるのに1年かかったわ
 逢いたいのは未練じゃなく
 サヨナラって涼しく言うためよ

 そう、サヨナラを一方的に告げるのは、どちらの曲も彼女からなのだ。そしてこの「レモネードの夏」の設定は、歌詞に木漏れ日や貸自転車、コテージが登場することから、軽井沢のような避暑地であると思われる。これが「凍った息」での雪に埋もれたテニス・コートに重なるわけだ。そして。

 人は知らない間に 傷ついてることがある
 そうよクリスマスのカードを見て泣き出したの

 彼から送られたカードの懐かしい文字を見て、強がっていたあの頃の自分と、もう戻れない年月を思って涙する主人公の彼女がいる。「レモネードの夏」での、まだ20才だった主人公の彼女と、この「凍った息」での成長した主人公の彼女を重ね合わせると、曲の最後のフレーズがとても味わい深く聴こえる。

 過ぎ去った時の三叉路
 戻れない並木道

 歌声は淡々としながらも深い余韻を残して終わるこの曲。純粋にすごした若い時代のほろ苦い思い出に胸が締め付けられるような切ない曲でありながら、聖子さんの透明感のある声が、それを純化している気がする。そこがまたいい。
 雪に閉ざされた今日のような日にぴったりの、隠れた名曲だ。