セイコ・アルバム探訪18〜『Canary』

Canary
 1983年12月10日発売の8thアルバム。アルバムチャートではもちろん首位獲得。売上げ枚数はLP39.2万枚、カセットで23万本。これは彼女の全アルバムの中で『SUPREME』(1986年)、『ユートピア』(1983年)に次ぐセールス。
 シングル「瞳はダイアモンド」収録ということで、当初、アルバムタイトルは『Jewels』と発表されていたが、最終的にはSEIKOが初めて作曲に携わった、アルバム中の“目玉曲”のタイトルから『Canary』となったというのは一部で有名なハナシ。俺も当時、大型電気店系列のレコード屋に貼ってあった発売前のリリース情報で『Jewels』とあるのを見て「何だかシブいタイトルだわ・・・」と感じた記憶がある(笑)。実際、アルバムジャケットのトーンもトップアイドルにしてはヤケにシンプルで落ち着きすぎている印象で、収録曲にしてもそれまでのブリッコ路線を踏襲したものよりも全体に大人びた印象のシックな作品が多く、その意味ではアルバムタイトルはむしろ『Jewels』の方がピッタリ来るかもしれないな、なんて思ったりもする。
 当時俺はこのアルバム、カセットテープ版で購入したのよね。歌詞カードは渋いグレーで、収録曲は既発シングル「瞳はダイアモンド/蒼いフォトグラフ」を含めてタイトルはすべて英語のタイトルで統一されていて、もちろん全曲にミュージシャンのクレジットが載っている、その辺りにそんじょそこらのアイドルじゃ手の届かない、オンリーワンの「聖子クオリティ」を感じたことを覚えている。
 ただ、この作品で聖子と初コラボとなった作曲家は林哲司(2曲)と井上鑑(1曲)のみであって、曲調もミディアム・スローのナンバーを中心に当時の聖子には珍しいマイナー・キイの曲も数曲含まれていることなどから、渋すぎ・地味過ぎる、ということで、全盛期にビッグ・セールスを記録した作品にしては、ファンの中でもあまりイチオシとして上がることの少ない作品のような気もするのよね。
 俺としてはかなり(カナリー!)、好きなアルバムなんだけどね(と、ここで突然オヤジギャグ・・苦笑)。結局、『Pineapple』『Candy』『ユートピア』と、作品を追うごとに凄いメンツを従えて、これでもかとハイ・クオリティなアルバムを次々と繰り出してきた聖子に、ファンの期待が膨らみ過ぎて、この作品でちょっと肩透かし(現状維持)を食らったような印象が残ってしまったのかもなと、そんな気もする。
 アルバム帯コピーは
「自由な光をあびて、いま鼓動はあなたへ SINGING・・・聖子。」。
歌姫=カナリアのイメージね。
 それでは曲紹介。もちろん全曲、作詞は松本隆さん。

 大村さん得意のキュートなデジタル・ポップで幕開け。超多忙なスケジュールをこなしていた聖子の声が疲れてか細い喉声になっているのだが、その幼い声の印象が功を奏して一層キュートに仕上がっているのが皮肉。ちなみにロリポップとは棒付きキャンディーのことで、歌詞には関係ないみたい。

 男女混合コーラスによるイントロ(ちょっとテンポがずれてるけど!)からして爽やかさ溢れるミディアム・ポップス。作曲家・セイコのビギナーズラック(笑)が生んだ佳曲。松本さんの、映像(どこか異国の港町が舞台と思われる)が浮かぶ詞も見事で、これぞプロの仕事という感じ。聖子さんもカナリアよろしく気持ちよさげに歌ってます。

 当時「悲しみがとまらない」「哀しい色やね」など連続ヒットで注目されていた林哲司が聖子アルバム初参加。一方、寺尾聰作品で名を挙げたアレンジの井上氏も初参加メンツ。新鮮なコンビの手による聖子ポップスは、3連ビートの効いたこれまでになくアッパーなサウンド。でも女子高生がセンセイに恋しちゃった、という陳腐なストーリーは、ちょっといただけないわね。

  • Misty(曲・編:井上)

 続くはタイトル通り、聖子史上最もミステリアスでシブいナンバー。聖子の歌声もいつになく大人びて色っぽい感じ。難しい旋律を吐息声で囁くように歌うAメロから、「♪ 抱きしめていて 海を飛ぶ Ah 鴎たち」と続くサビは声を張って滔々と流れるように歌い、まるでエクスタシーに身を委ねるかのよう。聖子さんもそれ(エクスタシー)を意識して歌っていた?…とは思えないけどね(笑)

 同年10月発売の先行15thシングル。初登場1位、翌週2位になるもののさらに次の週1位に返り咲き、最終的には1位に通算2週、2位に通算6週間留まるロング・ヒット。累積売上げ枚数は58万枚。晩秋をイメージした、マイナーコードを織り込んだやや地味目の曲調ながら、別れを予感する切ない詞とマッチして結果は大ヒット。ベストテン番組では詰襟のマニッシュな衣装でこの曲を歌う聖子さんがとても大人っぽく見えましたわ。のちにユーミンがセルフ・カバー。あちらの出来は・・・(苦笑)。

  • LET'S BOYHUNT(曲:林、編:井上)

 春のゲレンデを舞台に、スキーウェアでカワイく「目くらまし」してボーイ・ハントよ!みたいな。いかにも80年代的シチュエーションが今となっては懐かしい(笑)ナンバー。初参加コンビがこちらもアッパーな曲でノリノリに仕上げてます。聖子さんもこのタイプの曲がお好きみたいで、思い切りブリッコして主人公に活き活きと命を吹き込んでいる感じ。2005-2006年のカウントダウンライブでも歌われました。

 バラード。サビ前のAメロ・Bメロはマイナー・メロディーで、メジャーキイの曲ばかりだった80年代の聖子ソングとしては珍しい曲調。冒頭のボーカルがやや不安定で、疲れが見える。なんとか歌こなしているが、時間を掛けてレコーディングすればもっと上手く歌えたような気がするのが、ちょっと残念。とはいえ、長い海外生活から帰国した主人公が飛行機の窓から夜の東京の灯を眺めながら、そこに待つ「彼」に思いを馳せるロマンチックな詞を、説得力をもって聞かせてくれるその力量はさすが。今年発売の編集盤『エトランゼ』ではラストを飾った。

  • Party's Queen(曲:来生、編:大村)

 ゆったりとフォービートでスウィングする、ジャジーなナンバー。大人っぽいサウンドは間違いなく当時の聖子としては新境地。ワンコーラス+ハーフの構成で、詞はなんと7行(笑)。だからあっと言う間に終わっちゃって、決して悪くはないのだけど、何だか印象が薄いのが残念な一曲。

  • Photograph of Yesterdays(蒼いフォトグラフ)(曲:呉田、編:松任谷)

瞳はダイアモンド」との両A面カップリング曲。あの二谷友里恵も出演していたドラマ「青が散る」の主題歌。太田裕美さんを彷彿とさせる松本隆さんお得意の胸キュン青春ソングで、聖子さんとしては珍しい世界観。俺、この曲が大好きでね、もっとこういう世界をたくさん聖子さんに歌って欲しかったな。爽やかなブラスが切なさを倍増させる、松任谷ダンナのアレンジもとてもイイ。でも、このあまりにセンスのない英語タイトル、何とかならなかったのかしら(笑)。

  • Silvery Moonlight(曲:来生、編:大村)

 切なさ全開の名バラード。とにかくボーカルの集中力が抜群。ボーカリスト聖子・全盛期におけるオンリー・ワンのその魅力が堪能できる逸品。特にサビの「♪ Ah 友だちのままでいたいの わかって Ah〜」という部分、情感に溢れていて実に切ない。ただ盛り上げて終わるのでなく、最後の「♪ Silvery Moonlight」のリフレインで静かに収束する辺りが、聖子ポップスの品の良さよね。