シングル・レビュー〜80年代編

太田裕美さんのCD-BOX、本当に音が良くて、耳に馴染んだ曲がとても新鮮に聞こえるのが嬉しい。毎日、愛聴してます!そこで、今まで「太田裕美アルバム探訪」でもあまり言及できなかった、アルバム未収録の後期シングル曲について、改めて軽くレビューしちゃおうかな、なんて思ってます。今回は80年代編。

  • 南風〜South Wind(80年3月、詞曲:網倉一也、編:萩田光雄

 78年以来低迷を続けていた裕美さん。そろそろ「木綿のハンカチーフ」みたいな、爽やかなファルセットを生かした起死回生のヒットが出ないものかなあ、と思っていたところに登場したのがこの「南風」だった。キリンオレンジのCMソングとして久々のスマッシュ・ヒット(オリコン最高位は22位)。ギター・サウンドに乗って、爽やかな中にもノスタルジックなメロディーがCMから流れてきたとき、俺は久々にゾクっとさせられた。コンパクトによく出来た、ポップ・ソングのお手本みたいな曲。(この曲、裕美さんの声が不調なのがちょっと気になるのだけど。)これを機に、網倉一也氏はしばらく裕美さんのメイン作家となる。

  • 黄昏海岸(80年7月、詞曲:網倉一也、編:萩田光雄

 いくら網倉さんとの相性が良いったって、あまりにも〜、てな感じの曲。厳しく言ってしまえば「南風」の二番煎じ。裕美さんの全シングル中でも一、二を争う凡作になっちゃったかも。悪い曲ではないのだけど、「南風」の夏バージョンという、ただそれだけの曲。救いは、裕美さんがのボーカルがハッとするほど大人びているところで、このボーカルはいい。オリコン最高位は76位。

 『ロング・バケイション』がらみでリリースされた大滝詠一作品「さらばシベリア鉄道」は、最高位70位ながら3ヶ月にわたってチャートにとどまるロングヒットに。その勢いのままリリースされたのがこの曲(最高位81位)。終始きらびやかな分厚い音の洪水で、見事なまでのナイアガラ・サウンドフィル・スペクター風)が聞ける充実作である一方、裕美さんのボーカルの甘ったるさをシツコイほどに強調するメロディーづくりに職人・大滝さんの底意地の悪さのようなものが垣間見えるような気がする。時にニヤけたように歌う、裕美さんのボーカルのクセが嫌いなヒトは、きっとこの曲も受け付けないんじゃないかな。俺としては、詞も曲もドリーミーでまるで「星の王子様」の挿絵のような印象の作品で、大好きなのだけど。ちなみにこの曲、同年の聖子さんのアルバム『風たちぬ』(大滝プロデュース作品)収録の「一千一秒物語」のプロトタイプがなんじゃないかな、と思うのだ。

  • 雨の音が聞こえる(84年11月、詞:山元みき子、曲:筒美京平、編:板倉文+バナナ)

 活動10周年、そして結婚(休業)を記念して発売された3曲入りジャンボ・シングル。記念シングルらしく「雨の音が聞こえる」のイントロには「木綿」のメロディーがさりげなく織り込まれている。筒美氏のメロディーにはポップながらも切なく深い味わいがあり、まさに10年間の有終の美を飾るような、これぞ筒美+太田コラボ!とも言うべき名曲に仕上がっている。そのメロディーに呼応するかのように切なくも印象的な詞を提供したのは山元みき子。
静かね こんな静かな夜ははじめて 心から好きといえる」。このフレーズが素晴らしくて。。テクノ時代以降は元気印の裕美さんだったけれど、休養前のシングルでこんなにも深い余韻を残しながら(ある意味かつての裕美さんのイメージをちらつかせつつ)、しばしの休業に入ったのだ。ニクイね。

 次回、90年代シングル・レビューにつづく。