松原みき『POCKET PARK』

Pocket Park

Pocket Park

 松原みきは1979年11月にこのアルバムにも収録されている「真夜中のドア〜Stay with Me」でデビュー。松原みき本人の名前は知らなくとも、名曲「真夜中のドア」は知っているってヒト、結構多いんじゃないかな?ご本人は「真夜中のドア」を含めて大きなヒットにこそ恵まれなかったものの、80年代を通じてコンスタントに良質の作品を発表し続け、俺としては以前に取り上げた金井夕子と同列の、記録に残らずとも記憶に残る歌手の一人、であったりする。
 「真夜中のドア」は当時オリコンではトップ20にも入らなかったにもかかわらず、ラジオスポットで必殺のサビ、Stay with Me〜のところがガンガン流れていたりして、かなりのロングヒットになったような記憶があって、松原本人も結構テレビの歌番組や何かで見た覚えがあるのよね。見た目は少々化粧がケバい感じがしたけれどたしかに美人だし、音楽的には問題なくオシャレだったし、当時流行りのシティ・ポップ系のガール・シンガーがまたひとり登場、という感じで。ただ、ハスキーな歌声と独特の唸るようなビブラートが好き嫌いの分かれ目、みたいなところもあって、俺的には彼女のボーカル、当時はあまり好きになれなかった。なんだか濃い〜(悪く言えば下品な)感じがして。
 でも、今あらためてこのアルバムを聴き直してみると、なかなか良くできたボーカル・アルバムなのよね。もともとジャズ・ボーカル志向(彼女の母親がジャズシンガー)だったこともあって、当時若干20才の女性(それも新人)としてはあまりに堂々とした歌いっぷり。特にアップ・テンポのブラコン風サウンドが良く似合うようで、「His Woman」「Manhattan Wind」でのソウルフルな歌声は、素晴らしいの一言。セカンド・シングルとなった「愛はエネルギー」もその流れの1曲。フュージョン系のタイトなサウンドと洗練されたバックコーラスが西海岸していて、とっても渋い出来なんだけど、ちょっといくらなんでもこれは渋い路線に走りすぎたのかもしれず、この曲があまりヒットしなかったために、結局は彼女は飛躍の機会を逸してしまうわけで。もったいないよね。
 それにしてもこのアルバム、音は確かに古いかもしれないけど、本当にカッコイイのです。サウンド面で脇を固めるのは林哲司をはじめ、佐藤健芳野藤丸、梅垣達志、惣領泰則といった面々。もう、筋金入りのミュージシャンばっかりね。だからサウンド的にもとても洗練されていて。いまやJ-POP界は「歌姫」「ディーバ」流行りだけれど、30年前のこのヒトのこのアルバムも、並べてみて決して見劣りしないような気がする。機会があったら是非聴いてみてほしい作品なのだ。
 その後、化粧品のCMソング「ニートな午後3時」(作曲は小田裕一郎)がスマッシュ・ヒットするものの、[rakuten:book:11703505:image]*同時期にライバル会社のCMソングになったヤノアッコの「春咲小紅」には惨敗で、やっぱり少し運のなかったミキさんだったりして。俺としては83年の「Paradise Beach」(松本隆・細野コンビの作)なんかがとっても好きだったりしたのだけど、これもほとんど売れず、彼女はその後もずっと「シブイ系歌手」としての活動を続けていくことになる。80年代中盤以降は、ジャズのカバーアルバムに挑戦したり、スクエアのメンバーとコラボしたり、シンガーとして独自の路線を追求する一方、ソングライターとしても頭角を顕していったようだが、そのあたりの経緯は俺も全く知らないままで(ごめんなさい)。
 残念なことに、2004年、がんのため44歳の若さで永眠。