太田裕美アルバム探訪⑰『まごころ』

hiroc-fontana2006-11-12

(まずは独り言。おそろしーことに、もう30年以上前なのね。このアルバム。そのころ俺、まだ小4(笑)。)
 1975年2月発売の記念すべきデビュー・アルバム。アルバムジャケットにあるような「深窓の令嬢」的なキャラクターイメージは守りつつも、曲調はクラシック調、歌謡曲調、アイドル・ポップ、フォーク、ソウルなどバラエティに富んでおり、コンセプト云々よりも前年11月にシングル「雨だれ」でデビューした新人歌手「太田裕美」のイメージをスタッフが探りながら、ある程度方向づけていく過程が伺えるアルバムになっている。そういった作品ゆえ、個人的には、太田裕美のアルバムとしてはまだ形が出来上がっていない「習作」といったイメージがどうしてもつきまとってしまい、結構軽く流してしまうアルバムではある。
 全12曲中(うち2曲は「雨だれ」のバージョン違い)、10曲が詞:松本隆・曲:筒美京平によるもの。残り2曲が詞曲ともに太田裕美本人による自作曲。アレンジは「幸福ゆき」「心さわぎ」「白い季節」の3曲のみ筒美アレンジで残りはすべて萩田光雄。すでに鉄壁の体制だ。大御所になる前の松本氏の詞にはまだ個性が発揮しきれていない凡庸さが感じられるものの、1975年当時のアイドル系(いちおうね)のアルバムとすれば、全編オリジナルでこのレベルの曲が並んでいるというのは、すごいことなんじゃないかな?と思う。
 裕美さんはどうかといえば、初々しく少女っぽい歌唱が目立つ。とりあえずはアイドルしとけばいいのかな?と当時ご本人が思い込んでいたのかもしれないね。全編において控えめな印象で、得意のファルセットもこの作品では声が出ていない、というよりもまだ敢えて勝負していない、といった感じ。すべてにおいて遠慮がちな「新人さん」らしい印象だ。

  • 雨だれ」。デビュー・シングル。オリコンでは20位前後を上下しながらじわじわとヒットし、最高位は14位をマーク。俺の当時の裕美さんに対する印象といえば、新人賞レースで派手に前に出ていた岩崎のヒロミちゃんの陰で、こっちのヒロミちゃんは上品だけどなんだかクラーい歌を歌う人だな、みたいな感じだった(笑)。その人が翌年、超ポップな「木綿のハンカチーフ」で出てきたから、その分、とっても衝撃的だったわけね。
  • 幸福ゆき」。続いては、70年代アイドル歌謡の王道をいかが?みたいな。裕美さんの歌声も歌い方もブリッコこの上ない。当時はまだブリッコという言葉はなかったけどね。前前からこの曲にはジュンコの香りがするな〜と思っていたのだけど、どうやら淳子の初期のシングル「三色すみれ」にどことなく曲調とか展開が似ているかららしい。それにしても「幸福ゆき」と言っても今の若者は本当に幸福駅があったことなんて、わからないだろうね。それでもこの詞は成立しちゃうってのが、ある意味スゴイと思いませんか!
  • あなたに夢中」。キャンディーズとは同名異曲。こちらはバカラック調のシャレたメロディーを持ったメロウなナンバー。ある意味まだ、筒美氏と太田裕美との関係性が確立される前の作品なので、純粋に極上の筒美メロディーが堪能できる作品になっているように思う。ただし裕美さんのボーカルは平凡。
  • 雨の予感」。冒頭、筒美氏のインストバンド「オリエンタル・エキスプレス」風のソウルっぽいナゾのイントロが入る。しかしアレンジは萩田氏。深まるナゾ。本編(?)では映画音楽風に様々なモチーフが複雑に展開し、裕美さんの扇情的なボーカルの効果もあっていつの間にかグイグイ引き込まれてしまう不思議な魅力のある曲である。「あなたに夢中」からこの曲の流れを聴く限り、裕美さんは南沙織のフォロワーとしての位置付けも担わされていたのでは?という気がする。
  • ひとりごと」。裕美さん自作曲。可愛らしい小品。「わたし」の発音が「わ・てぃ・し」になるのが、このころの裕美さんの特徴で、それがロリータ趣味の殿方にはたまらないかもね。
  • 夏の扉」。聖子とは同名異曲。とはいえこの曲には、コルネットが心地良いイントロとか、ミディアムテンポの上品な曲調とか、82年前後の聖子ポップスに通じるものを感じる。良く出来た上質のポップスだ。
  • やさしさを下さい」。長いナレーション入り。裕美さんのセリフがやけに猫なで声で、その清楚すぎるところが小津映画に出てくる清純派女優みたいで、却ってわざとらしく前時代的な印象を受ける。好きな人にはそれでいいのかもしれないけど。ちなみに本編の曲の部分は改詞されてセカンド・シングル「たんぽぽ」B面に「リラの花咲く頃」と改題して収録された。
  • 心さわぎ」。ドラマチックなピアノのアルペジオから始まる三連のマイナー・バラード。ゴローの「甘い生活」の裕美バージョンという感じ。こんな曲も裕美さんの声だから軽く聴けるのだ。
  • グレー&ブルー」。俺は渡米前の裕美さんの自作曲にはあまり心動かされる曲が無いのが正直なところなのだけど、フォーキーで、どことなくエルトン・ジョンのバラードの香りさえ感じるこの曲は、とても好き。このアルバムでは終始控えめな裕美さんのファルセットも、この自作曲では本来のなめらかな美しさを存分に出し切っている感じで、いい。
  • ぬくもり」。これは松山千春風ド真ん中のマイナー・フォーク。こんな感じで、裕美さんはフォークと歌謡曲の中間点を探っていたのでしょう。
  • 白い季節」。デビューシングル「雨だれ」とコンペで負けてシングルB面に収まった作品で、クラシカルな曲調は「雨だれ」と同じだが、こちらはスタッカートを強調したメロディーがよりピアノ曲を意識した印象がある。オリジナリティ溢れる佳曲であり、「雨だれ」「白い季節」どちらがA面でもいずれにせよ太田裕美は世に出てきたに違いない。
  • 雨だれ」。クラシックアレンジ・バージョン。アレンジが大仰な感じなわりに、ボーカルはシングルバージョンとあまり変わりないのが残念ではある。最近よくあるシンフォニック・アレンジ・アルバムの先駆けかも。

 さて、この「アルバム探訪」なる自己満企画もデビュー・アルバムまで来ちゃって、オリジナルフルアルバムはとりあえず終了。あとは今月22日発売の新作を待つのみ、ということで一区切りっす。コメントもトラバも相変わらずございませんが(笑)カウンターが伸びているのは確かで、いつの間に2万。。。書いてて楽しかったのも確かなので、また何か別なことを考えようかな、などと思案しているこの頃なのである。