ブエナ・ビスタ・ヨースイ〜「とまどうペリカン」

hiroc-fontana2009-04-13

 俺の中での陽水さんのイメージ。退廃的。耽美的。時間帯でいうと断然「夜」ね。それも深夜。暗闇の中にぼおっと浮かび上がる蛍光塗料のような、鮮やかだけれど暗く冷たい色。
 ヒット曲の「夢の中へ」や「青空、ひとりきり」や「少年時代」。「みなさんお元気ですかあ〜?」のCMで見せた、「昼の顔」はやっぱりホントの井上陽水じゃあないのよね、俺にとっては。
 何と言っても「傘がない」に始まって「ジェラシー」、「リバーサイドホテル」、「いっそセレナーデ」、「Make-up Shadow」そしてカバーヒット「花の首飾り」を含めて、このヌメッとしたボーカルと、どこか人を見下したような耳に引っかかる歌詞と、マイナー調のけだるいサウンドでこそ、本領発揮する人。
 たとえば色っぽい妻の石川セリに贈った「ダンスはうまく踊れない」とか、アキナの鼻っ柱にぶつけた「飾りじゃないのよ涙は」とか、玉置コージという男のドロドロした欲望を炙り出した「ワインレッドの心」とか、他者への楽曲提供でもしっかりとその個性をキープしている。(パフィーに提供した詞も、見事にリスナーをコバカにした傑作だった。笑)
 「とまどうペリカン」は82.10.21にアルバム『ライオンとペリカン』の先行シングルとして発表された曲で、一部では井上陽水の最高傑作とも言われる作品。

 夜のどこかに隠された あなたの瞳がささやく
 どうか今夜の行く先を 教えておくれとささやく
 私も今さみしい時だから 教えるのはすぐ出来る 詞:井上陽水

イケナイ夜へと向かう二人。この、どうにも止まらない欲望の炎と、その引き返せない欲望の渦の中でさえ、つかみきれないおたがいの本心の歯がゆさ。それがペリカン(男)とライオン(女)に喩えられてこう続くのだ。

 あなたライオン たて髪ゆらし
 ほえるライオン おなかをすかせ
 あなたライオン 闇におびえて
 私はとまどうペリカン

う〜、いくの、いかないの、どっちなの、みたいな感じ?
ところでなぜ、キリンでもシマウマでもなく、ペリカンなの?というギモンは残るのだけどね。でも当時の陽水さんは「なぜか上海」とか「いっそセレナーデ」とか、意味不明な言葉の組み合わせでシュールさを追求していた時代なのよね。だから、詮索は抜き(笑)
 この作品、92年のセルフ・カバーの走りともいえる作品『ガイドのいない夜』のラスト・ナンバーとして再録されていて、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ俺が断然プッシュしたいのはこの再録モノの方なのよね。こちらはピアノをベースにコンガ・ボンゴなどのラテン・パーカッション、バリトン・サックスなどをフィーチャーした「キューバン・ミュージック」アレンジ。これが退廃的で色っぽいこの曲に見事にマッチして、まさに「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の世界なのね。
 もともと陽水さんの曲は「リバーサイド」にしても「ダンスはうまく」にしても、独特のリズム感で構成された曲が多いような気がするのだけど、この『ガイ夜』版「とまどうペリカン」はそのまま世紀末のダンスホールで流れていても違和感が無い位、すばらしく「ラテン」してます。日本人アーティストで、これほど色気があって退廃的な雰囲気を醸し出せる人っていうのは、今や陽水さんを置いて他にはいないような気がするのよね。(そういえば、エゴ・ラッピンはどこへ?)
 そんな感じでいろいろ考えていたら、薬師●さんに陽水さんが提供したこの曲、サウンドこそシンセに変わっているけれど、驚くほど「とまどうペリカン」に瓜二つ。もろ姉妹曲ですね。こちらもアンニュイなムードの名曲でした。まずは「ステキな恋の忘れ方」↓

 さて、こちらは本家。ただし残念ながら『ライオンとペリカン』のオリジナル・バージョンで、キューバンテイストは薄め。「とまどうペリカン