まさに水彩画の日々。「初恋/Hope」

初恋

初恋

 今年は太田裕美さんデビュー35周年。記念の年に30枚目のシングルとなる新曲が届いた。
 これがまた、記念曲と言うには全く肩の力が抜けた感じの作品で。そこがとても太田さんらしい感じ。
 まあ、ファンだから毎日ヘビロテ中ではあるのだけど、この新曲、手のひらの上に乗せた途端にふわっとまたどこかへ飛んでいってしまう羽毛のようで、はたまたタンポポの綿毛のようで、本当に軽くて淡〜い曲調で、耳をふ〜っと抜けていく感じなのよね。あら、もう終わっちゃったの、みたいな。その繰り返しで(笑)。
 実際の演奏時間も、「初恋」が3:56、カップリングの「Hope」が3:28。最近のヒット曲はいろんなものを詰め込みすぎで、やたらと演奏時間が長くなっている傾向があるように思うのだけど、いまどき、この短さはすごい(笑)。
 太田裕美さんのオフィシャルサイトのタイトルは「水彩画の日々」だけど、今回の新曲はまさに水彩画、という印象。CDジャケットで裕美さんを飾っている若葉も、よく見ると水彩画で書かれていたりするのだ。それに加えて裕美さんのボーカルには全く媚や気取りがなく「純真無垢」な印象で。まるで憑き物が落ちたような、純粋すぎる歌声。(ホント、歌い方が真っ直ぐ過ぎて、ポップスの歌い手として大丈夫かしら?と心配になってしまうくらい。)
 「初恋」の作詞は裕美さん、作曲は伊勢正三さん。曲はシンプルなワルツのバラード。故郷での久しぶりのクラス会で、初恋の人に逢う「ときめき」を歌った詞は、設定としては少しばかり陳腐ではあるけれど、いつもながら太田さんの言葉選びのセンスが冴えていて何ともいえない味わい深さがある。「振り向く横顔 ページめくる指 全部 全部 好きだった・・・」とか「言葉のしずくに にじんだ月影」とか、言葉数は少ないけどもイマジネーションを呼び起こすフレーズが次々出てきます。でもこの歌は、少なくとも10回は聴かないと良さがわからないかも。ちょっと地味だものね。
 さて、hiroc-fontanaが気に入ったのは「Hope」。こちらは詞・曲ともに裕美さん本人の手によるもの。「岬めぐり」風の懐かしさ漂うフォーク路線で、最新アルバム『始まりは“まごころ”だった』のラスト曲「道」の流れを汲む作風。まずはメロディーメイカーとしての太田さん面目躍如で、メジャーとマイナーを行き来する、どこかノスタルジックなメロディーがとてもイイし、裕美さんも「初恋」より自作のこちら(「Hope」)の方が歌い易いようで、ボーカルのノリも断然いい。本人の多重録音によるバッキング・コーラスの絶妙なからみ具合も聴き所だ。

 ねえ こころの 旅を続けてる
 その瞳は 何見てるの?    詞:太田裕美

 「Hope」の詞はこんな感じで、とても内省的なのだけど、最初の「ね〜え〜」と語りかけるフレーズが曲中に何度も繰り返し出てきて、裕美さんの声でそう歌われると何だかこちらが彼女から甘えられているようで、何とも優しい気持ちにさせれちゃうのよね。だからたぶん、親子とか恋人とか友達とか・・・自分の大切な人のことを思いながら聴けば、必ずや温かい気持ちにさせてもらえるはず。そんな歌だ。きっとこれは、裕美さんからのファンへの35年目のプレゼント。うん、きっと、そう。