「金平糖」〜変わらずに変わり続ける凄さ

金平糖

金平糖

 太田裕美さんのニュー・シングル。NHKみんなのうた」OA中。作詞・太田裕美、作曲・吉川正夫&太田裕美、編曲・松岡モトキ
 裕美さんと同時代に同じレコード会社(CBSソニー)に所属して大ヒットを連発、時代を代表するスターになったのは山口百恵さん。少しあとに裕美さんと同じ松本隆さん作詞の作品群でトップに上り詰めたのは松田聖子さん。
 70年代・80年代を代表するトップスター二人のことは俺も大好きで、このブログでも何度も取り上げてきたところだけど、今回、太田裕美さんの新曲を聴いて、ああ、百恵さんも聖子さんも好きだけれど、俺はやっぱり太田裕美さんがイチバン好きなんだ!と再認識したのね。だから何なの?と問い返されそうだけど(笑)、俺の中ではね、いままで百恵さんの歌を聴くときも聖子さんの歌を聴くときも、そこにどこか“太田裕美さん的なもの”を求めて聴いてきたような気がするのだ。
 それは例えば、プロの手によるクオリティの高い楽曲の提供を受けて、シングルのみならずアルバムでも質の高い作品を出してくれたこととか、それら様々なタイプの楽曲を全て自分のものに咀嚼して歌いこなす歌唱力・表現力とか、そういったところだ。でも何より、彼女ら自身が時代の要請とともに驚くほど柔軟に変化を遂げながらも、本人の魅力となる“核”の部分を決して失わない強さ、そこにもっとも、俺は惹かれてきたのだろうと思う、たぶん。
 前置きが長くなりました(いつものことですが・・笑)。このステキな太田さんの新曲「金平糖」を聴いてなぜ、そんな大げさなことを考えたのかと言うと、そこに紛れもない「成長(変化)」と「不変(普遍)」の両方を感じたから。
 「成長」。それはソングライティング力。音楽的素養のある彼女が紡ぎ出す温かくキャッチーなメロディーの素晴らしさ言うまでもないが、裕美さんに特筆すべきはその「詩人」としての実力。アメリカ滞在記で賞を獲るなど、その隠された文学的才能は以前から実証済みではあるけれど、それが今回の作詞ではさらに飛躍的成長を見せている。

 あの日 私は泣いていた
 大事な大事なあの人を・・・
 思うたびに涙があふれ
 心がチリヂリ砕け散り
 誰にも会いたくなくて
 何処にも行きたくなくて
 ただひたすらにあてどもなく
 夜の街を歩いていた
               「金平糖」詞:太田裕美

 大事なあの人を・・・おそらく死別してしまったのよね。しかし、それを「・・・」で表すことによって、そしてその後に当て所なくさまよう様子を書く事で、「死」という直接表現をせずにもその“茫然自失”と“悲しみ”が痛いほどに伝わってくるような気がするのよね。
 そして、空から降ってくる「金平糖」。そう、霰(あられ)ね。ほんのり冷たいそれが懐かしく甘い記憶を呼び起こして、私の心を溶かしてくれる。それが「あなた」からのおくりもの、というメルヘン。大震災という、悲しい出来事が起こった今年を締めくくるに相応しい、すばらしいメルヘンだと思いませんか?裕美さんのこのイマジネーションの素晴らしさに脱帽、です。
 続いて「不変」の部分。それは本作での歌声の復活。よく彼女の声は透明だとか爽やかとかで表現されることが多いけれど、俺は裕美さんの声のイチバンの魅力は“切なさ”だと思っているのね。それが近年、少しずつ裕美さんの声も年齢とともに痩せてきて、ドライであっさりした印象が強くなってきたのね(前作「初恋」のレビューご参照)。それが俺としては物足りなくもあったのだけど、今回の新作ではその切ない哀愁声が見事に戻っていて、それだけでも俺にとっては素晴らしい「おくりもの」だったのだ。低音中心のそのボーカルは温かくて、音の終わりにほんのりかかるビブラートが切なくて懐かしくて、デビューして37年、もう五十路もとっくに過ぎた(苦笑)裕美さんの声がまた少し若返っている!というオドロキ。実は今回いつになく(いつも以上に)長くなってしまったのは、その感動があったからなのです(汗)。
 カップリングは「心はいつも日本晴れ」。こちらはアップテンポで心を元気にしてくれるようなカントリー・タッチの佳曲。バンドっぽい荒削りなドラミングや、フレーズの合間の裕美さんの“Fu〜”というハミングに思わず心弾む。「希望のエンブレムを/胸にペタリと貼って/心はいつも日本晴れ」。日本を元気に、なんていう在り来りな言葉より、このさりげないメッセージこそが心に響く気がするね。