セイコ・アルバム探訪23〜『A Girl in the Wonder Land』

A Girl in the Wonder Land(初回限定盤A)(DVD付)
 突然の連続エントリー三日目は、聖子さんの新作レビューです。
 まずひとこと。「努力賞、あげたい。」
 少なくともセルフ・プロデュース期に入ってからのアルバム群の中では質的に上位に分類していいんじゃないかな。ここのところ、セイコファンを名乗る人の間では「セイコたんをけなすこと」こそが常道、のようになってしまっているから、今さら諸手を挙げてSeiko&Ryo Oguraの作品を賞賛するのにためらいがあるのは確かだけれど、この『A Girl in the Wonder Land』は、そう、上出来よ。セイコたん、よくやってくれた。
 まず曲調・アレンジがバラエティに富んでいて、いつものマンネリ感がない。一方、詞の方は相変わらずで”ポエマー・セイコ”だけれど、一応は「一人の少女がアルバムを通じて人生の旅をする」コンセプトに沿ってはいる。「人生の旅」というのは聖子流解釈では「恋の始まりから終り」ということなんだけどね。彼女らしいと言えば彼女らしい。そして何と言っても、外注組のChara久保田利伸作品が非常に良いアクセント。まさしく本作の要(かなめ)的な曲として光っている。
 まあ、よくよく考えれば、こうしたアルバムの作り方って、音楽制作の王道(当たり前)であると俺は思うのだけど、あまりにも酷かった前作『Very Very』のあとに、今回こうして“王道”に軌道修正した聖子さんの姿勢こそ、評価してしかるべきかな、と。
 ただ惜しむらくはセイコのボーカルね。どんな曲も聖子ボーカルのクオリティで引っ張っていた80年代〜90年代前半の全盛期とは真逆で、歌い方の妙なクセ(例えば「し」を「しぃ」、「か」を「くぁ」と発音する“ネチネチボーカル”)と、どこか辛そうな声の出し方ばかりが耳について、却って様々なタイプの曲をのっぺらぼうにしてしまっている印象がある。聖子さん本人は『ユートピア』のような真夏のキラキラ感を出したかったようだけど、それはあの頃の聖子ヴォーカルが溌剌としていて瑞々しいニュアンスを表現できていたからこその話。いまの声ではちょっとその世界を再現するのは難しいのかもね。。。辛いけれど、それをすごく感じた。
 そうは言っても聴いているうちに慣れてきて、そんなに悪くないな〜なんて思えたり。かと言ってこの作品が世界レベルで見てクオリティ的に非の打ち所のない完璧さを備えているかというと、やっぱり「努力賞」かな、なんて。そうなの、もうあまりに長いこと変化に乏しいセルフのダサク群(笑)に慣らされてしまって、もはやセイコ作品には客観的判断が出来なくなりつつあるhiroc-fontanaなのだ。。
 さて曲を見てみましょう。

  • A Girl in the Wonder Land(詞:Seiko Matsuda、曲:Seiko & Ryo Ogura、編:R O & Naoki Kurio)

 これは、まんまオリビア・N・J&ELOの1980年のヒット曲「Xanadu」ですわ。聖子たんデビューの年の洋楽のパクリとは。。。でもオープニングとしては明るくハデな雰囲気のわかり易いポップスで悪くないかも。Wonderland≒Xanadu、という連想ゲームかしらね。

  • LuLu!! (詞:Seiko、曲:Chara、編:R O & Naoki Kurio)

 “Lulu”というのはフランス語で「ワタシの可愛い子」みたいな意味があるようね。私はこの曲は導入のAメロのみで勝負の曲のように感じるのね。音数の少なさと「♪ ずっとずっと」で高音に急に飛んでファルセットになるところ、そこだけが飛び抜けて素晴らしい。シングルチャートでは残念ながら惨敗だった様子。

  • Fairytale(詞:Seiko、曲:Seiko & R O、編:R O & Sachiko Miyano)

 ストリングスを全面に押し出したクラシカルでロマンチックな曲調は2005年のアルバム『Fairy』を踏襲している感じ。そのアルバムに収録されたインスト曲とは同名異曲。やれやれ。しかしピアノの軽やかな音色とバイオリンのピチカートに乗って3連音符が軽やかに舞う上品なメロディー&アレンジが秀逸。「花びら舞って ドレスの裾を揺らす」。。。またも使い回しの歌詞満載だけど、新鮮な印象の好曲。

  • リビアン・ウインド(詞:Seiko、曲:Seiko & R O、編:R O & N Kurio & S Miyano)

 ボサノバ・タッチのミディアムポップス。1〜3曲目で恋に落ちた二人が、カリブ海をバカンス、みたいな流れ。このリゾート感が聖子さんのいう「『ユートピア』をもう一度」なのかもね。間奏のアコギやコーラス、管楽器のオカズなど、アレンジも中々いい。俺は好きよ。

  • Oh! Darling,Listen to Me!! (詞:Seiko、曲:Ryo Ogura、編:R O & N K & S Miyano)

 リョー小倉作曲のこの曲が案外良いのでまずビックリ。イントロをはじめ全体の雰囲気は80年代の洋楽っぽいのだけど、コンピュータの似非ストリングスと絶妙に絡み合うサビあたりから、『Strawberry Time』の頃の聖子風ポップロックに展開。「♪ 眼鏡をかけて行こう 泣き腫らしてしまった」で始まる聖子の詞も、微妙になり始めた恋人たちの関係を匂わせてインパクトがある。

  • ひみつ(詞曲:Chara、編:R O & N K)

 バラード。いかにもCharaの作風が色濃く出たこの曲が、このアルバムの白眉、と俺は思っているの。散文、というより抽象もしくはアバンギャルドとも言える難解な言葉の数々を、聖子さんがひとつひとつ噛み砕いて歌にしている感じ。この集中力が心地良い。ネチネチボーカルながら、得意のしゃくり上げ攻撃でCharaの孤高世界にがっぷり四つで挑んでいる聖子さん。

  • Oh No!! (詞:Seiko、曲:Ryo Ogura、編:R O & N K)

 あら、前の曲で集中力の糸が切れたかしら(笑)。何だか中途半端なダンス・ナンバー。気合入れてアルバム作るなら曲調云々の前にとにかくこのタイトルを何とかすべきだったのでは?詞は一言で言えば、恋のかけひき。イロイロ経験を重ねてオトコ慣れしてきた少女、ってとこね(笑)。

 そしてクボジャー作曲のバラード。初めて聴いた時はイマイチだったのだけれど、聴くほどに味わいが増してきた作品。アルバム8曲目にして腰の座ったバラードが登場するところが構成としては良い。R&B色の感じられる独特の粘り気あるメロディーが、聖子の粘っこいボーカルを上手く消臭している感じ(笑)。いよいよ恋の終焉を感じさせる切なげな歌詞も雰囲気は出ている。

  • I’m saying good bye〜愛しい人〜(詞:Seiko、曲:Ryo Ogura、編:R O & N K)

 「白い月」は“♪ 雨の音がするわ”で始まる。そしてこの曲の始まりは“♪ 雨がやんだら 荷物をまとめ”と、前曲からの流れがとてもスムーズで良い。「Calling You」を彷彿とさせる静かでミステリアスなバッキングに、泣きそうなささやき声で聖子のボーカルが入ってくる導入部が素晴らしい。どマイナーなバラードながら、演歌チックではなくヨーロピアンなイメージに仕上げていて成功ね。(歌い方はエンカだけど 苦笑)。この曲で少女の旅は最終章、「別れ」を迎える。

  • あの星の輝きをあなたのもとへ(詞:Seiko、曲:Ryo Ogura、編:R O & N K)

 う〜ん、この曲、いらないわ(笑)。別れた人への思いを歌った、いつもの冗長な聖子バラード。スキップ!あら、1曲目にもどっちゃったわ!!
 
なんてオチなの!?あはは。