セイコ・アルバム探訪24〜『ユートピア』

ユートピア この季節にぴったりな、超・定番アルバムの登場。1983年6月1日発売の7thアルバム『ユートピア』。アイドル時代としては最も充実していた時期のアルバムで、結婚前の最高売上(LPで41万枚)を記録した代表作。09年のブルー・スペック盤での再発時には『Pineapple』(最高49位)に次ぐ最高位50位を記録。
 ファンの間でも「名盤」として名高い作品の一つであるわけだけど、今聴くと、同じく夏発売の名盤として挙げられることの多い82年の『Pineapple』が瑞々しさに溢れた傑作だとすれば、その1年後にリリースされたこの『ユートピア』は、もはや詞も曲もアレンジも歌唱も「円熟」の域に達した作品のように思えてくる。オーバーな例えかも知れないけれど『Pineapple』がビートルズでいうところの「赤盤」だとすれば、『ユートピア』は「青盤」。どちらも聖子ソングスのエッセンスを凝縮した作品であるけれど、その濃度が全く違う。そんな感じね。
 このアルバム発売当時、俺は「週刊FM」という雑誌を購読していたのだけど、アイドルなど滅多に登場しないその誌面の新譜紹介のコーナーで(多くの洋楽作品に混じって)このアルバムが取り上げられて、「もはや松田聖子のアルバムは世界に通用するレベル」なんて書かれていたことを思い出すのよね。せ、世界レベル!?サスガの俺もビックラこいたわけなのだけれど(笑)、まあ、この練り上げられたトータルな世界観は今聴いても確かに強固で揺るぎないものがあるし、アレンジもメロディーもオーソドックスながら押しなべてセンスが良いし、30年経って聴いてもほとんど違和感が無い作品であるということは間違いないわけで、その辺が当時の批評家をして「アイドルとしては抜きん出たハイクオリティ」を感じさせたのかも知れないね。
 ところで今年リリースした『A Girl In The Wonder Land』は聖子たん的にはこの『ユートピア』的世界観を再現したかったようなのだけど(「どこがじゃいっ!!」とツッコミ。笑)、なるほど近年のライブでも「マイアミ」「セイシェル」等このアルバムからセットリストに加わる曲が多く、おそらくご本人にとってもバイブル的作品なのだろうと思う。
 帯コピーは「セイシェルの色にそまり、いま こころはあなたへのシンフォニー、聖子。」。ちょっと「ピンクのモーツァルト」風な意味不明フレーズ。
 年間アルバムチャートでは堂々3位で日本人アーティストではトップの売上げ。その意味では本当に「世界レベル」ね。
 それでは曲紹介。

 口笛吹きながら海岸を散歩しているようなイメージの可愛いらしいポップスで幕開け。爽やかなストリングスのリフとエレピの使い方が効果的なアレンジで、真夏の晴れ渡った青空を連想させてくれる。「真夏の〜プールの帰りに〜」というサビでの繰り返しや、「時さえ溶け出しそうなの 八月」の決めフレーズが、否応なしに聴く者を真夏の海へと誘うような、オープニングとして文句なしのナンバー。

 ノリの良いポップスで畳み掛ける。こちらはライブの定番曲。気分は一気にリゾートへ。シンセベースの刻みから、きらびやかなエレピにギターが控え目に入り、そこにコーラスが加わって次第に盛り上がっていく。このアルバム、どの曲もまず、イントロが素晴らしいのよね。それとサビ前「♪ 靴の底には砂が詰まって痛いから 逆さに振れば二人だけの夏が こぼれるわ〜」のフレーズで聖子ヴォーカルが一気にはじけるところが俺、大好きなのよね。ちょっぴり切なくて。そうこの曲、実はひと夏の恋の終わりを歌った曲なのよね。

 これもライブの定番バラード。20周年記念でファン投票によって選ばれたべスト盤のアルバム曲編「Another Side of Seiko」では第5位に入った人気曲。詞曲ともにリゾート感溢れるロマンチックな傑作なのだけれど、惜しむらくは聖子ボーカル。センチメンタルな情感を込めすぎて、喉が締まった非常に苦しい歌い方のように聴こえる。当時のハードスケジュールの影響も拭えない気がする。

  • 小さなラブソング(詞:SEIKO、曲:財津和夫、編:瀬尾)

 初めて聖子たんが「歌の作り手」として加わった(手を染めてしまった)記念すべき作品(苦笑)。「そばにいたいの だって・・・あなたがだ・い・す・き」って。今の詞と変わってないことにオドロキ!30年前よ、30年! ったく聖子たんったら。でも、メロディーとボーカルとアレンジがちゃんとしているから、これが結構聴きものだったりするわけで。80年代の「聖子マジック」ここにあり、という1曲でしょう。

 4月27日発売の第13弾シングル。1位に1週、トップテンに7週。売上げ枚数47万枚。前作「秘密の花園」が40万枚を切るセールスでやや苦戦したあと、初めて細野氏と組んだこの作品は彼らしい、ひねりの効いたメロディーと転調がクセになる曲で、粘り強いチャートアクションで痛快ヒット。ユーミン3部作が「アーティスト聖子」の誕生だったとすれば、この曲で「無敵のポップス歌手・聖子」の完成を見たような気がする。髪をアップにしてフリフリの衣装でこの曲を歌う聖子さんがとにかくキュート、でした。

  • ハートをRock(詞:松本、曲:甲斐祥弘、編:大村)

 バラード調の導入部から、ブレイクして一気にモータウンサウンドに展開。はじける聖子のボーカルがとにかく魅力的な作品。媚びるような鼻声が畳み掛けるリズムに乗って独特の“切迫感”を醸し出して、非常にテンションの高い仕上がり。そう言えば「「ハートをRock」と「ハートをLock」の発音の区別が大変なんですよ」なんて当時の聖子さん、ちょっと得意気にラジオで話してましたっけ(笑)。

  • Bye-bye Playboy(詞:松本、曲:財津、編:大村)

 重量級の曲が並ぶ中で、やや大人し目な印象のポップス。セルフ時代に聖子たんが使い倒すことになる“あなたはプレイボーイ、許さないわ!”という歌詞は、この曲がルーツかも(笑)。ボーカルの方は、音の出だしで「ア・ア〜」と喉を締めるクセが目立って、聖子さんの声がどこか疲れている感じで冴えない。とはいえサビ(♪ Good Bye-bye Playboy)の部分では切なげに声を張り上げて、そこがしっかりと耳に残る。

  • 赤い靴のバレリーナ(詞:松本、曲:甲斐、編:瀬尾)

 甲斐よしひろの持ち味が濃厚に出たフォーク調のバラード。聖子としては新鮮な印象で、成功している。「Another Side of Seiko」でも第15位に入った人気曲。昨年末のバラード・ライブで披露されて話題になった。当時の聖子には珍しく(今では“当たり前”なのだけど 怒)意図的にテンポを後ろにずらして情感を優先する歌い方をしている。呟くように訥々と歌うAメロと、サビ後半(♪ 街を歩けば 風もはしゃぐわ 私恋してるのよ)のしゃくり上げたっぷり&切なさマックスな歌い上げの対比も鮮やか。

 2月3日発売の第12弾シングル。ピンク・レディーの記録を塗り替えて連続10作1位の金字塔を打ち立てた記念曲。しかし1位には2週留まりながらも6週でトップテンから消え、累計売上も39万枚と、当時としては振るわなかった。いかにもユーミンらしい、イメージ豊か且つドリーミィな、良く出来た作品ではあるが、ややコンパクトにまとまりすぎた感もあるのは確かかも。ところでこの曲を歌う聖子さんの衣装は超ミニのワンピースで、「♪ ああ、あ・せ・る・わ」のフリで片手を挙げる瞬間のパンチラが話題になったわよね(実際は見えても良いショーツを履いていたらしいけどね)。

 名盤の最後を飾る隠れた名曲。こちらは「セイコ・ソングス」で単独エントリーを上げていますのでこちらを。