セイコ・アルバム探訪30〜『Bibbidi-Bobbidi-Boo』

Bibbidi-Bobbidi-Boo(初回限定盤A)(DVD付)

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 デビュー35周年記念のアルバムは、まさかの全曲作詞作曲・松田聖子、という「ど・セルフ」アルバム。やれやれ。ということで全く期待せずに聴いてみると、まあ悪くないな、って。聖子さんの場合、期待しない、ということが何より大事なのだと思う。思い切りハードルを下げて臨むことで初めて、一般リスナーに近い目線で評価できるような気がする。
 だからと言って、たとえそれによって減点法から加点法に切り替わったとしても、ファンとしては「セイコにしては頑張った」というような、努力点をどうしても無意識に加算してしまって、難しいところよね。
 まあそれもこれも、30周年の『MY PreludeMy Preludeあたりからの数作が、プロのアーティストの作品としては余りにイタダケない(ザンネンな)仕上がりだったからだと思うのよね。そこからすると、久々に外注曲を取り入れた2013年『A Girl in the Wonder Land』あたりから、外注の英語曲が光っていた昨年発表の『Dream&Fantasy』も、ここ数年はアルバムの出来が年々上向いているような気がして、余計につい努力点をつけてしまいがち。これがいけないところね。でもまさかセイコたんがそんなファンの反応を計算に入れているとも思えないし、特に今作では声の状態もかなり改善されていたりすると「聖子なりにトレーニングを積んで頑張ったのかもな」と純粋に思えてしまって、どうしても点数が甘くなってしまうのよね…。我ながらどれだけ聖子が好きなのだろう、と呆れてしまったりしてね(苦笑)。
 でもね。こうしてあれこれ自分を正当化してもやっぱり、最新作『Bibbidi-Bobbidi-Boo[rakuten:book:17420903:image:small]はどうしても、コキ下ろすことが出来ないのだ。うん、このアルバム、悪くない…。そうとしか言えない。
 近年特に顕著に見られるようになってきたネチネチとした発音と、喉を締めて歌う苦しそうな発声が、今作ではずいぶんと改善されている。それだけで格段にアルバム全体が聴き易くなっているし、彼女のボーカルの最大の魅力である「ニュアンス」が戻ってきている気がする。これは前回の記事にも書いた通り、恐らくは昨年末の紅白歌合戦(大トリ)での歌唱について、厳しい評価をするファンやマスコミが少なくなかったことから、彼女が一念発起した可能性は大きいように思う。
 それと作曲面では、今回はサビのリフレインが印象的な曲が多くて、全体にメリハリが効いている気がする。聖子さんの作曲の才能については以前から一定の評価はされていたものの、『Bibbidi-Bobbidi-BooBibbidi-Bobbidi-Booではポップスとしての完成度が高い曲が格段に多くなっているのは確か。(もちろん!詞の方は、相変わらずだけどねっ!・・・苦笑。)
 そして何より、アレンジ。『SUPREMESUPREME以来の武部聡志氏をはじめ、松本良喜氏(「雪の華」の作者)、島田昌典氏、ツアーバンドのメンバー・野崎洋一氏に、おなじみの栗尾直樹氏・小倉良氏、以上6名が分け合って担当していて、それだけでサウンドがとても新鮮。特に野崎さんがイイ仕事してます。全体に聖子さんのダビングコーラスを効果的にフィーチャーした曲も多くて、全編通してオンリーワンの声の魅力が充分味わえるのが、いい。
 さて、そんなわけで、セルフアルバムでは久々に抵抗なくリピートしているこの作品。まあ、35周年で聖子さんも頑張ったわよね(って、結局「努力賞」?(笑))。
 さて、それでは曲紹介。今回はほとんどの曲に副題がついてます。一応それもコンセプトの一環なのだろうけど、それが却ってインパクトを弱めてしまっているのが、残念。全作詞・作曲は松田聖子(今回は漢字表記なのね)。

  • Bibbidi-Bobbidi-Boo(編:松本)

 タイトル曲は、サビでのコーラス(♪Woo Woo〜)と聖子さんの声(♪Bibbidi-Bobbidi-Boo)の掛け合いも爽やかな品の良いポップス。歌い出しの聖子さんの声の軽やかさに引き込まれる。久し振りの声、という感じ。ストリングスのピチカート、効果的に聴こえてくるオーボエ、ピアノが舞うナチュラルなアレンジが秀逸。でもね、聖子たんの発音「ビビデばでブー」が気になって仕方ないのよ(苦笑)。これが、正しいのかしら?(←追記:「ビブディ・バァブディ・ブ」というのが本場の発音よ!ということのようです。)

  • しあわせの瞬間 〜Happy Ever After〜(編:島田)

 八分音符のメロディに乗せて、歌い出しで飛び出す「♪ことりたちのうたごっえ〜」の必殺ブリッコ唱法に思わず“なつかしい〜〜”。まあ内容的にはいつもの「夢見るWedding Day!」(苦笑)ということで、聖子たんにとって結婚式はとにかくシアワセの象徴らしくて(だから何度も、結婚を繰り返すのね!)やれやれな感じ。まあ歌詞はともかく(苦笑)、曲としてはコンパクトにまとまってます。

  • Eternity 〜永遠〜(編:武部)

 バラード。こちらも「♪あなたへの〜ん このおも〜っい〜」と歌い出しのニュアンスがいかにも聖子さん、という感じ。勘が戻っているな〜と感じさせられる。ただ、武部さん→SUPUREME→バラード→瑠璃色の地球と連想&期待してしまうと、ちょっと厳しいかも。「永遠」「輝く星」「出会った奇跡」と聖子ワードの繰り返しで、いつの間に聞き流してしまう曲になってしまっている。

  • Our love last forever(編:小倉・栗尾)

 今回はいつもよりかなり控えめに参加しているオグラたんと栗尾さん。聖子さんのファルセットと多重録音のコーラスを多用したこの曲のアレンジは、とてもいい。"Dance along, Dance along""Sing along, Sing along"のリズミカルなサビのリフレインといい、歌詞の無意味さを含めて洋楽的な(笑)洒落た印象の佳曲に仕上がっている。

  • felicia 〜君は僕の太陽〜(編:野崎)

 felicia、って。シラッと自分お店の名前の宣伝しちゃう聖子たん、商売上手(?)ね。こちらもバラード。「♪felicia 可愛い フェリシ〜ア〜」というサビのメロディ、サビにも関わらず最低音を使っていて、そこがとても耳に残る。作曲家セイコの閃きが光る一曲。

  • Fairy dust 〜魔法の世界〜(編:野崎)

 50歳を越えて「♪チクタクチック チクタクチック」はないだろ〜!なんてツッコミ入れながらも、ド派手なアレンジに、低音のAメロからアップテンポでサビまで盛り上がっていく曲構成につられて、いつの間にこちらも「チクタクチ〜ック!」と歌っちゃってるワタシも、そういえば50歳(笑)ウフフ。このアルバム、全体的にとにかくインパクトあるリフレインが耳に残るのよね。

  • Theme of Mouse 〜マウスのテーマ〜(編:野崎)

 続いては、オルゴールのような伴奏に乗せて、まるでかつて聖子さんがママとしてデュエットした、幼い頃の沙也加さんのようなロリ声(おまけに音程のビミョーさも再現!)で歌う、異色曲。この曲がここに入ることで、このアルバムが格段に面白くなっている。"Tell me baby! Tell me love me"の早口のリフレインがとにかくキュートで、夢見る白人少女が窓際で両手に顔を乗せて首振りながら歌うようなイメージ(わかるかしら?)。

  • 星空への祈り(編:松本)

 そしてここでまた、美メロのバラード。このアルバム、4曲目からこの8曲目まで、バラエティに富んだ曲並びになっていて、とても流れがいいのだ。だから聴ける。途中のさりげない転調が聖子バラードにありがちな冗長さを回避していて、いい。ピアノ中心のシンプルなアレンジを含めてなかなか良く出来た曲なのに、タイトルと歌詞があまりに平凡で、そこが残念。

  • I will love you forever(編:野崎)

 イントロでなめらかに転がるピアノと、後ろで終始きめ細かに刻むアコギのクリアなバッキングに乗せて、サビではI will love foreverのフレーズがセイコさんの多重コーラスで幾重にも重なってくる。アレンジの力で聴かせる曲。俺は、好きよ。この曲

  • Happy Ending(編:小倉・栗尾)

 エンディングは、バラード。詞といいメロディといい、いつものセルフセイコにありがちな世界で、これはこのアルバムの中では凡作、かも。。。
 
 ということで、セイコ35周年のアルバムがこの「セイコ・アルバム探訪」企画の記念すべき30回目になりました。まだレビューしきれていないアルバムも残っているのですが、とりあえずレギュラー企画としてはこれでひと区切りにさせていただこうと思います。