『おるたな』にスピッツ草野君の良心を見る

おるたな
 久しぶりにスピッツのCDを買った。
 1曲目「リコリス」。草野マサムネくんのあの哀愁声と、ノスタルジックなメロディーを聴いたら、フイに涙が出てきて。
 あ〜。変わんない。なんで、こんなに変わらないんだろう、スピッツって。
 
 1996年。前に勤めていた会社の先輩と二人、3日がかりの登山(縦走)をした帰りに大雨に遭ってしまって、やむなく無人の山小屋にビバーク(野営)したのね。寒い山小屋の隅っこで背中を寄せて温め合って、夜を越したの。俺はその頃まだゲイを隠していたから、もちろん大胆なことは出来なかったんだけど(笑)、究極の状況で二人で体を寄せ合って夜を明かした、たったそれだけでその先輩に恋しちゃったのだ。よくある話ね。そして、命からがら帰り付いた麓の商店のラジオから流れていたのが「ロビンソン」。ロビンソンだからあの曲を聴くたびに、その頃のやるせない気持ちを思い出して、胸がキュンとなるのよね。
 それから、2002年。両親が相次いで亡くなって、俺、もういいやって思ってね。初めてゲイのコミュニティに足を踏み入れたの。そして掲示板で出会ったのがH君。とてもシャイで優しくて男らしくておまけにハンサムで、ゲイ=オカマと思い込んでいた俺は“ゲイにも、こんな人がいるんだ!”て感動して、すぐに好きになっちゃって(苦笑)。
 それからは仕事の途中でも電車の中でも寝る前にもいつもH君の顔ばかりが浮かんでしまって。メールを出したあとは、返事を今か今かと待ち続けて、年中メールチェックばかりして、返事がなければタメ息をついたりしてね。生まれて初めて、ありきたりなラブソングがみんな、自分の事のように思えて感動したりした。
 まあ、そんな(俺にしては)熱い恋も結局は片思いに終わっちゃって。俺が一方的に彼に“理想”を塗りたくって、勝手に惚れていただけでね。これも、よくある話。その頃のBGMがアルバム『三日月ロック三日月ロック。その1曲目「夜を駆ける」がこれまたとてもセンチメンタルな名曲でね、この曲を聴くと今でも、片思いしていたあの頃の胸を掻きむしられるような辛い気持ちを思い出して、やっぱり胸がキュンとなるのよね。
 
 そう、俺が遅咲きの恋をしていたあの時、いつも耳に流れていたのが、スピッツ
 
 新作『おるたな』は、シングルのカップリング曲やトリビュート・アルバムなどの企画盤に単発で発表したカバー曲等、アルバム未収録曲だけを集めたスペシャル・アルバム。
 とにかくカバー曲が素晴らしいの。ドラマ主題歌に採用されて話題になった「タイム・トラベル」(原田真二)をはじめ、ユーミン14番目の月」、「さすらい」(奥田民生)、「さよなら大好きな人」(花*花)など、いかにも草野君らしい選曲もさることながら、オリジナルのアーティストやファン層が決して不快に感じないであろう、カバー曲への絶妙な距離の取り方が、彼の控えめで他者を気遣う性格(良心)を物語っているようで、俺、草野マサムネくんとスピッツが一層好きになったのよね。
 いつも俺の思い出に寄り添ってくれていた、スピッツ。思い出のBGMがスピッツで良かった。このアルバムを聴きながら(涙を拭いながら)、そう思った。
 スピッツはこれからも、ずっと変わらないでほしいな。