アイドル人気衰退期の「奇跡曲」たち

 アイドルの一生も人生と同じで、初々しい誕生(デビュー)から子供時代・青春時代を経て、やがて成人してピーク(人気絶頂期)を迎え、そして静かに枯れながら中年・壮年時代を経て、最後は消えていくことになるわけね。(もちろん、その一生を駆け抜けるスピードは様々だけどね。)
 さて、今回はそんなアイドルの一生の中で、おもに“ピークを終えたあと”に発表された曲の中で、まさにその歌手の有終の美を飾るように、“ハマった”「奇跡の一曲」を特集しようという、ちょっと無理やりな企画です。
 ピーク後というのは、何をやっても難しいのは当然。逆境下だから、アイドル本人もスタッフも、様々なチャレンジや工夫によって何とか延命しようと試みるもの。しかし時として、そんな試行錯誤の中からまさに「これだ!」というような名曲が生まれることがあるのよね。では始めましょう。
 まずトップバッターは、早見優ちゃんの回でも取り上げた、石川秀美ちゃん。彼女の16枚目のシングル「愛の呪文」。CMソングでもあったのだけど、デビュー4年目にしてようやく出場が叶った紅白で歌われた曲ね。何と言ってもこのスピード感、ドライブ感は、体育会少女出身の秀美ならではといえる快心の出来栄えでした。この後何を勘違いしたか、秀美ちゃんは自分のキャラを遥かにとび超えたロック路線へと向かってしまい、「愛の呪文」がヒット歌手・秀美の“有終の美”を飾ったわけね。ゲバッ!ゲバッ!

 続いても80年代。文字通り様々な試行錯誤(?)で多様な音楽遍歴を持つ故・本田美奈子さん。ロック路線やラテン、バンド、演歌など試しつつ、最終的にはミュージカル(ミス・サイゴン)の主役を射止めるに至ったのはご存知の通り。その経験も活かして10年目にして本来の伸びやかな歌声を全面に出した「つばさ」(1994年)は最高ランクこそ低かったものの、CMソングとして話題となりロングヒット。間奏にかぶさる驚異的なロングトーンは、マニアの間で話題に。ちなみに岩崎ヒロリンが今もこの曲、歌い継いでいる。
 ピーク(頂上)が高いほど谷も深いように、国民的アイドルの激しい凋落という意味では典型的なのが70年代のこのふた組。そう、真理ちゃんとPLね。でもやはりそれぞれ、人気凋落が始まったちょうどその頃に、ファン離れに“待った”をかけるような名曲を発表しているのよね。天地マリちゃんは「想い出のセレナーデ」(1974年)、ピンク・レディーの方は「ピンク・タイフーン」(1979年)ね。
 まずは真理ちゃん。それまでの明るさ一辺倒な曲調から一変、ヨーロッパ的エレガンス漂う哀愁バラードであるこの曲が、本来の真理ちゃんのしっとり落ち着いた声質に見事にマッチして、大ヒット。抑揚あるメロディーの素晴らしい名曲で、凡庸な印象の森田公一センセ、最後の真理ちゃんへの大きなプレゼント、だったと思う。
 一方のピンク・レディー。阿久・都倉コンビではもはやナンバー1も獲れず、万策尽きた感のあった1979年、折しも秀樹が「YMCA」で大ヒットを飛ばしていた企画を思わずパクってしまったのが、同じくヴィレッジ・ピープルのカバー「ピンク・タイフーン(In the NAVY)」。しかしフタを開けたらこれが大当り。「ピンク・タイフーン」は、イントロの手拍子からしてダンス・チームでもあるピンクの躍動感が漲る見事なディスコ歌謡に仕上がり大ヒットに。今では間違いなく彼女たちの代表曲の一つ。
 さて、このあたりで少し男性アイドルに言及しとくわね。俺が忘れられないキセキ曲は近藤真彦の14枚目「ケジメなさい」(1984年)なのね。人気絶頂期の曲じゃない?と思われるかもしれないけれど、デビュー4年目のマッチは意外に低迷していて、売上がずっと右肩下がりだったのよね。初めての馬飼野センセの曲で久々に30万枚超のヒットとなって、マッチの勢いを知らしめたこの曲、とにかくハチャメチャな疾走感がサイコーなのだ。
 もう1曲は、チェッカーズの13枚目のシングル「I Love You,SAYONARA」(1987年)。こちらはデビュー3年半経ってそろそろ売野&芹沢・ロカビリー路線もネタが尽きてきた頃に、メンバーの自作に切り替えることで生まれた名曲。チェッカーズはその後もヒット曲を多く持つものの、爽やかでありながら切ない印象を残す、いかにも彼ららしい最後のヒットがこれ。
 さて、あとはかい摘んで参りましょう。大型アイドルではこのブログでも取り上げた淳子たんの30枚目「美しい夏」(1980年)が、彼女らしい凛とした名曲でした。ナチュラリー+4(紙ジャケット仕様)地味ながらファンの間でも語り継がれる名曲です。わが太田裕美さんではもちろん19弾シングル「さらばシベリア鉄道」(1980年)。太田裕美 Singles1978~2001大滝氏のロンバケから生まれたスピンアウト企画ながら、まさに裕美さんにしか歌えない世界を、きりりとした歌声で見事に表現してロングヒットしました。工藤静香姐は長いキャリアの中で時々ポッとヒットを飛ばす不思議な姐さんだけど、初めて詞も曲もみゆきに託した10年目の28弾シングル「激情」が何と言っても“アタシの集大成よ”といった感じで印象的だったわね。月影同じような意味では柏原芳恵の21st「最愛」(1984年)もオススメ。あまりに地味で忘れられそうですけど。。
 最後に紹介するのは70年代アイドルの元祖、南沙織さんの25枚目のシングル「春の予感」(1978年)。まさに引退寸前に発表された、奇跡のような1曲です。尾崎亜美さんがアレンジまで手がけたその繊細な世界をシンシア本来の洋楽的センスで表現した究極のポップス、今聴いてもその瑞々しさを失っていないというのはオドロキです。

 というわけで、あ〜、やっぱり少しばかり苦しい企画ではありましたかね。。。。
 ベスト盤なんかを聴いていて、全盛期の大ヒットはともかく、あまり売れなくなってからの曲の中に、その歌手と曲(アレンジ含む)のハマリ具合があまりにバッチリで、思わず目が覚めるような曲があって嬉しくなっちゃう、そんな経験、あるでしょ?その瞬間を共有してもらいたくてこのテーマにしてみたのだけど、ちょっと難しかったわね。反省!