セイコ・アルバム探訪12〜  『Fairy』

fairy
 2005年4月6日発売。これまでセルフ時代の聖子さんのアルバムでは“サウンド・プロデュース”という裏方的役割を担ってきた鳥山雄司氏が、初めて作曲・アレンジなど全面的に携わったアルバム。
 地味ですけどね、中々いいですよこれ。hiroc-fontana、近年ではかなり好きなアルバム。少なくともセルフ期の小倉くんや原田くんとのコラボと比べると、鳥山さんとのコラボが一番聖子さんには合っていたように思うのね。サウンドがカラフルでありながら、どこか品の良さがある。つまりは本来の聖子サウンドの王道、という感じなのね。だからかわからないけれども、聖子さんの詞もどことなく大人びているように思うのね。(収録曲のタイトルを見ても得意の「!」とか「♥」とかいうのを使っていなくて、落ち着きがあるものね。)ただその分、いつも以上に歌詞が「弱い」「伝わらない」のは如何ともしがたいところ。
 一説によると録音の際に鳥山さんは聖子さんへの細かな歌唱指導も行なったらしく、確かに「永遠さえ感じた夜」を聴くと、セルフでついた歌い方のマンネリ感が一掃され、その発音・発声に丁寧さが戻っている気がする。ただ、気になるのは結果として聖子さんのボーカルに無理を感じる曲が少なくないところ。オーケストラやストリングスをフィーチャーしたクラシカルなアレンジが中心なので、ボーカルを際立たせたミキシングの曲が多い分、伸ばした声の加齢による質の粗さや、出しづらい高音を無理に出そうとする苦しそうな感じが、とても目立つのよね。。。次作『Bless You』ではすぐにお友達の小倉ちゃんとのコラボが大復活することを考えるに、聖子たん、周りからあれこれ指導されることに、これでコリゴリしたのかも(苦笑)。
 成績では25周年効果でセールスも好調、アルバムチャートでは7位まで上昇し、当時、アルバムトップテンランクイン数でユーミンと並んで歴代1位となった(Wikipediaより)。
 それでは曲紹介。1曲(9曲目のみPhilippe Saisse作曲)を除き全作詞:Seiko Matsuda、作曲・編曲:鳥山雄司

  • Giselle

 終始鳴り響くストリングスが荘厳な印象のバラードで幕開け。妖精になった娘を題材にしたバレエ作品でもあるタイトル「ジゼル」がロマンチックで良い。ただ肝心な聖子さんのボーカルは駄目。妙に力が入って苦しそうで、音をブチブチ切ってしまうところが気になる。80年代後半(「スプリーム」の頃)の聖子に歌わせたかった。

  • 永遠さえ感じた夜

 ロイヤル・フィルハーモニーをバックに従えた優美な作品。抑揚ある難しいメロディをしっとりと情感豊かに歌い上げる大人の聖子。ファルセットも美しく、なかなかの聴きもの。2月に先行シングルとして発売。オリコン34位を記録。

  • 花びら

 春らしい跳ねるようなリズムのミディアム・ポップス。洒落た曲調で悪くないが、聖子のボーカルは敢えてノンビブラートで伸ばすように歌う低音部が、かなりガサついており、声帯の劣化がとても気になる。3rdアルバム『Silhouette』収録の「花びら」(三浦・小田作)とは同名異曲。

  • Let's try again

 溌剌としたダンス・ナンバー。ギター・アルペジオ&ベースと打ち込み、弦のピチカートで構成したAメロのアレンジがとてもクールで良い。なのに間奏で入るギター・ソロがあまりに安っぽくてすべて台無しなカンジ。惜しい!ちなみに歌詞で言っていることは「もう一度初めから」&「素敵にONCE AGAIN」です(笑)。

  • Fairytale(Intelude)

 美しいインスト曲。短い曲ながら2回も転調していて、さりげなく耳を奪う。このあたりの工夫が他のセルフアルバムには無い、プラスポイント。

  • あの日のまま

 ワルツ。2004年11月に先行シングルとして発売との情報も流れていた。流麗なストリングス・アレンジがロマンティックな印象を醸し出す佳曲。「もういちど」「もう二度と」という言葉遊びと、聖子さんの絶好調なしゃくり上げが印象的な作品。

  • 夢見てた二人

 シングル「永遠さえ」のカップリング曲。カーペンターズを彷彿とさせる、ゆったりスイングする上品なポップスは聖子さんには珍しく、これこそアルバム『Fairy』の印象をリードする中心的作品。サビのメロディーはどこかで聴いたような気もするけれど、メジャー・セブンスで終結しないところがまた素晴らしい。とても良い曲なのだけど、唯一のマイナスが聖子さんの苦しそうなボーカル、というところがとても残念。もっと軽く歌って欲しかったわね。

  • ウェディング・ロード

 タテ乗りのポップス。こういう曲でも決して過剰にならないアレンジがこのアルバム作品の特徴で、鳥山雄司氏の手腕。詞は文字通り結婚がテーマ。サビの“ライスシャワーの中で”という部分だけが印象に残る感じで、曲は可もなく不可もなし。そう言えば「さざなみウェディング・ロード」って曲もあったわね(涙)。

  • just for tonight

 この曲のみ、作曲がフィリップ・サシーとなっている。全米発売盤『area62』のアウトテイク?的な唐突なダンス・チューンという感じではあるけれど、決してうるさくないのは、前曲との並び順のおかげかも。ちなみにこちらも『area62』に同名異曲が入ってます。聖子たん、もっとよく考えて!

  • あなたが遠すぎて

 出ました!「あなた」シリーズVer.28。(←番号はでっち上げですけどね。 笑)こちらはハッキリ言って駄曲。何の特徴もない冗長なバラード。迷わずスキップ!

  • Stars

  もういい加減にして、って感じよね。『Windy Shadow』は「Star」。こっちが「Stars」。確かに意味は違うけどね。曲はオケをバックにした壮大なバラードでなかなか良いのだから、タイトルだけでも何とかしなさいって。「星夜」とか、最悪「耀星のあなた」でもいい(笑)、想像を膨らませるタイトル、いくらでもあるじゃん。さすがに鳥山さん、そこまでは言えなかったのかな。。。
 
 通して聴くと、前半に対して後半が弱い気がする、このアルバム。それでも、コンセプチュアルにまとまった印象のある作品として、90年代以降では存在感のある作品であることは確かなように思う。