9回裏ダメ押し〜二番煎じの名曲たち〜

 何回か前のエントリー「アッパー・ソング特集」で紹介した、サーカスの「愛で殺したい」を改めて聴き直したら、本当にかっこよくてイケてて、ビックリしちゃってね。「Mr.サマータイム」が大ヒットしたあとの78年秋にリリースされて、最高位は28位、売上は10万枚だったこの曲。確かに“大ヒットのあとの大コケ”と言えなくもない成績だけれど、実はトップ100位内に4ヶ月近く留まるロングヒットで、オシャレでハイソな実力派コーラス・グループ、サーカスの存在をある意味決定づけたヒット曲なのかもな、なんてことも思ったのね。このヒットで繋いでおかなかったら、もしかするとそのあとの「アメリカン・フィーリング」の大ヒットも無かったのでは?なんてこともね。
 以上は前置き。
 大ヒット後の“二番煎じ”として、ちょっと陰に隠れがちなヒット曲。でもよくよく聴けば地味ながら名曲だったりする曲。大ヒットしたから次も勢いでいっちゃえ!的なトホホな“二番煎じ”は多いけれど、大ヒットの次こそ真剣勝負、とばかりに真正面から取り組んだあとが窺える名曲も少なくない、この分野なのだ。
今回はそんな、のちのちそのアーティストの存在価値を決定づけることにもなる、実のところ「勝利の立役者」、大ヒットのあとを受けて立った名曲たち“9回裏ダメ押しソング”を特集してみました。
 
 まずは前回のエントリーに続いて太田裕美さんの登場。大ヒット「木綿のハンカチーフ」からなんと半年のブランクを空けて送り出された力作が「赤いハイヒール」。男女会話の詞の形式は二番煎じでも、この曲の方が「木綿」より好き、という人も少なくない。大ヒット(最高位2位、49万枚)しました。

 続いてはブラザー・カトーこと、狩人の「コスモス街道」です。「あずさ2号」の一発屋?と思いきや、セカンドシングルのこの曲も大ヒットしたおかげで、加藤兄弟はめでたく“ニ発屋”としてその後しばらく存命しました(笑)。ちなみに俺は「あずさ」よりこっちの方が好き。

 さて大御所モモエさんの場合、社会現象にもなった「ひと夏の経験」の大ヒットの後、青い性からちょっと路線変更して出した「ちっぽけな感傷」が9回裏ダメ押し曲と言えるかも。センセーショナルな大ヒットに隠れがちではあるけど、ジミなところが一層淫靡な感じがするフシギな曲で、結果こちらも大ヒット(最高位3位)して百恵人気を決定づけました。

 モモエに続いてはヒデキ、「ホップステップジャンプ」。デビュー8年目の痛快大ヒット「YMCA」のあと、文字通り「ホップステップジャンプ」でリリースしたこの曲、カバー曲だった「YMCA」より歌謡曲的でわかりやすくてポップで、ヒデキらしい良曲でした。最高位2位。

 70年代は秀樹なら80年代はトシちゃん。デビュー9年目の88年に大人路線で大ヒットした「抱きしめてTONIGHT」のあとを受けて発表された名曲が「かっこつかないね」。こちらはこのブログでも何度も取り上げてますよね。トシちゃんのショウビズ路線の集大成、筒美歌謡の大傑作でもあります。

 続いても80年代アイドル。ソングライターに竹内まりやを迎えてアーティスティックな路線にシフトし始めた河合奈保子ちゃんのエポックとなったヒット曲が「けんかをやめて」。それに続いて同じラインナップでリリースした「Invitation」は「けんか」ほどのインパクトは残せなかったものの、その後の奈保子ちゃんの上品なイメージを決定づけるダメ押しヒットでした。こちらも佳曲。

 ちなみにナオナオの仲良し、ヨシヨシの場合、出世曲「ハロー・グッバイ」(カバー曲)をオリジナルで忠実に再現したような「恋人たちのキャフェテラス」が予想以上の佳曲で、この曲がヒットしたおかげで柏原芳恵ちゃんはトップアイドルとして定着したのよね。その他の80年代女性アイドルのダメ押しソングとしては、工藤静香姐さんの「Jaguar Line」(大ヒット「Blue Rose」の二番煎じ)、歌謡ロッカー・早見優ちゃんの「CLUSH」(大ヒット「Passion」の二番煎じ)あたりが隠れた名曲としてオススメです。
 
 お次はニュー・ミュージック系。まずは八神純子さん。出世作「みずいろの雨」は余りに“ウタうまいでしょ?”的に聴こえて、当時hiroc-fontana的にはあまり好きじゃなかったのだけど、続く「想い出のスクリーン」はちょっと「みずいろ」を地味にした感じで素直に「いいわ!」と思ったのよね。この曲も順調にヒットして、純子さんはその後しばらく「ザ・ベストテン」にレギュラー出演することになり、結果、毎週のように久米宏からセクハラまがいにイジラれまくることに(笑)。

 北の大御所・松山千春は、78年秋に「季節の中で」を大ヒットさせて一躍全国区に進出。この1曲で終わりかな〜なんて思っていたら翌年春にリリースした佳曲「」が地味ながらロングヒット。その後は大御所街道まっしぐら、です。

 さて、最後は世間で「一発屋」と認識されている人たちによる二番煎じの名曲。その意味では“9回裏のダメ押し”とは言えないのだけど、どちらも大ヒットのあとだからこそ頑張ったと言うべき力作で、hiroc-fontana的には忘れられない2曲であります。
久保田早紀「25時」
クリスタルキング「蜃気楼」
 
 今回もおつきあいありがとうございました。