まりやさんの幸せな日常〜『TRAD』竹内まりや

TRAD(初回限定盤) (DVD付)
 7年ぶりのニュー・アルバム。アルバムチャートでは早々と1位獲得。80年代(『LOVE SONGS』『Variety』)、90年代(『Quiet Life』)、00年代(『Bon Appetit』『Denim』)そして10年代のこのアルバム1位によって、4ディケイドにわたってオリジナルアルバム1位を獲得!という大記録を打ち立てたのだとか。おまけに女性アーティストでは最年長での1位獲得記録更新というオマケつき(苦笑)。
 今回このアルバムを聴いて、7年のブランクどころか、90年代のアルバムと比べてもその音楽性のブレなさ、変わらない印象に良くも悪くも「脱帽」だった俺。達郎ダンナの手厚いバックアップのもと、その高値感のあるサウンドとボーカルはやっぱり揺るぎない安定感を感じさせてくれて、まるでずっと前から聴いていたアルバムのような錯覚さえ覚えて、何だか聴いていてホッとしたのよね。まあね、他者への提供曲のセルフカバーを含めて収録曲の殆どがタイアップなどで既出作品の最収録なわけだから(実際にクレジットを見ると2014年の作品は15曲中3曲しかない)、新作というよりベスト盤に近いつくりだったりするのだけどね。
 まりやの定番3連ロッカ・バラード「縁の糸」に始まって、リバプールな「それぞれの夜」、心地よくスウィングするアップテンポのポップス「アロハ式恋愛指南」とアルバム冒頭の流れからもう「鉄板まりや節」炸裂で、もうワンパターンを通り越して"様式美"の世界。悪口をいう隙を与えないくらいに(苦笑)、その揺るぎない世界観を前に、力技でねじ伏せられている状態な俺なのだ。
 今回、このアルバムを聴いて、彼女の「強み」と「弱み」、その両方が何となくわかったような気がしたのよね。
 日本の音楽界でのまりやさんは、まぎれもなく女性ではユーミン中島みゆきさんに並ぶ3大女王の一人だと思うのだけど、天才肌のユーミン、孤高の芸術家肌のみゆきさんと比べると、はっきり言って作品的に竹内まりやさんはずっと“大衆向け”の印象があるわけで。これまで、詞世界とメロディーでリスナーを圧倒するような作品をどれだけ生み出しているかと言えば、他の二人に比べてどうしてもまりやさんは分が悪い気がするのね。そこは明らかに「弱み」。
 アーティストとしてのスタンスにしても、近年は寄る年波に抗いながら身を削って音楽に立ち向かっているようにさえ見えるユーミンのハングリーさから比べると、至極マイペースに「曲も貯まったしアルバム、そろそろ出してもいい頃かしら…。」というようなスタンスのまりやさんは、ほとんど公に姿を現さないまま、現状維持こそ良しとして自ら“さらなる進歩”を放棄しているようにさえ見えたりする。言葉を変えれば、戦っていない。
 ただね。見方を変えると、そんな“ゆとり”“のんびり感”こそがきっと、彼女の最大の「強み」なのかな?とも思えてくるのだ。
 つまりそれは、竹内まりやさんは「平和ボケした現代日本人のアイコンである」という考え方。
 政府が喧伝する景気回復は実感出来ないまま、毎年のように大災害に見舞われて国土は少しずつ荒廃し、人口減少は歯止めが効かず、この国にはもはや明るい未来など望めないことを薄々感じ取りながらも、今の豊かさこそが幸せであると思い込もうとしている私たち。そんな大多数のコンサバな日本人たちが、バブル時代から30年来全く変わらない“まりやサウンド”を聴いてホッとし、良き時代の夢をなぞっているという構図(そう、まさしく俺がそうなのです)。

おろしたてのミュールで向かうのは
あの人が待っているリストランテ
5年ぶりの再会に そわそわと急ぎ足
  「リユニオン」 詞:竹内まりや

 理想にはほど遠いけれど、まあ仲の良いパートナーがいて、そこそこの収入が稼げて、たまにはレストランでプチ贅沢もできる。そんな、はたから見れば明らかに恵まれた生活を送っている、バブルとその崩壊を経験した多くのコンサバ中高年層が、間違いなく「勝ち組で富裕層」のまりやさんの音楽を聴きながら、自分たちがちょっとだけ背伸びすれば手の届きそうな“より幸せな生活”を夢見ている、そんな絵柄が見えるのだ。みゆきさんやユーミンのように、現実を鋭く突きつけてこない、どこまでもハッピーでマイルドな音楽世界。だから、いまだ大勢の日本人が彼女の音楽を支持しているのかもしれない、なんて思う。
 さて、このアルバムに収録されている「特別な恋人」。ご存じ聖子さんへの提供作品特別な恋人(初回限定盤)(DVD付)で、最後はやっぱりこの話にも触れておかないとね。これが、ほとんど本家のアレンジそのままで収録されていて、これまでのまりやさんだったら、セルフカバーは“ホントはこう歌うのよ!”と言わんばかりに何から何までゴージャスに作り変えるのが常だっただけに、どこか肩透かしを食らった感じなのよね。ただ、ご本人のコメントからも歌手・松田聖子へのリスペクトが感じられて「収録させていただきました」的な低姿勢が何だかとても好感が持てたのだ。
 相変わらずタイアップが引きも切らない売れっ子アーティスト「竹内まりや」の、業界を軽々とわたって生き残る“人間力・底力”のようなものを、そのいかにもハウスワイフっぽい低姿勢(外づらの良さ?)から感じたのは確かで。(少し毒があったかしら?ごめんなさいね。 苦笑)
 もしかしたらやっぱり、3大女王の中でイチバン強いのは、まりやさんなのかもね。。。
 
〜まりやさん関連過去ログ〜