セイコ・アルバム探訪5〜『SQUALL』

SQUALL(DVD付) 記念すべきデビュー・アルバム。1980年8月1日発売。
 まさに歌うために生まれてきた天使の登場!という感じで、その歌声はピチピチとはじけて、まるで両腕で捕まえた大魚がスルスルと身を翻して海に逃げて行ってしまうような(昔のCMでこんなのありましたわね)イキの良さが全編に溢れている。時代はポスト百恵で沸き返っていた時期。初々しくも、稀に見る天性の輝きを秘めたジャケットの聖子ちゃんの表情からして、俺も発売当時、まさに新しいスターの誕生の予感をひしひしと感じたのを覚えている。
 このアルバム、全曲、ミュージシャンのクレジットが記載されていて、それだけでもアイドルのアルバムとしては型破りだったのだけど、ソングライターを含め大村雅朗佐藤準ら、参加していたメンバー自体が当時の新進気鋭の実力派アーティスト中心であり、サウンド的にもセイコさんの場合、このデビュー作からいわゆる“アイドル歌謡路線”から数段先を走っていたことがわかるのね。デビュー曲「裸足の季節」から3rd「風は秋色」まで続いた怒涛の「CMタイアップ攻撃」を含め、「ミス・ソニー」というキャッチ・フレーズに恥じない超強力な大プッシュでのデビュー、それが聖子たんだったのだ。
 ただ、そんな大スター・聖子の原点ともいうべきこのアルバム、80年代にズラリと並んだ彼女の傑作アルバム群の中で見るといささか異色の存在だと言える。まず、収録曲10曲の全曲を作詞:三浦徳子&作曲:小田裕一郎という同一ライターで固めていることがその一つ。全盛期のセイコのアルバムは“様々なソングライターとの組み合わせの妙”が楽しみのひとつであるだけに、やや物足りなさもあるのだけど、このアルバムに関しては全曲を同一のソングライターが手がけている分、曲調のバリエーションと全体の統一感がうまく同居している気もする。
 もうひとつの「異色」は、何といっても聖子さん本人の声!とにかく歌うことが嬉しくてたまらないという、自身でも制御できないようなパワーが漲るボーカル。しなやかに良く伸びる高音部は言うまでもなく、とくに地声で歌う低音部の叩きつけるような力強い声は、デビュー間もないこの時期にしか聴くことができない。その後、セイコさんの声はほぼ1年ごとにめざましく変化を遂げていくことになるのだけど、荒削りながらも圧倒的な存在感のあるこのボーカルを聴いて、彼女の歌はやはり「天賦の才能」であることを再認識できる、それだけでもこのファースト・アルバムは価値があると思うのね。
 帯コピーは「珊瑚の香り、青い風 いま、聖子の季節」。
 オリコン最高位は堂々2位、総売上はLP39万枚、カセット15万本。アイドルのアルバムは売れない、という常識を覆したことも「新時代の到来」を強く印象づけたのだ。
 では、曲紹介です。全曲作詞:三浦徳子、作曲:小田裕一郎

  • 〜南太平洋〜サンバの香り(アレンジ:信田かずお)

 導入は波音のSE。トロピカルな雰囲気のエレピ&スチールドラム(?)がユニゾンで奏でるサンバのフレーズがリゾート気分を醸し出す。イントロ部分のこの洗練されたサウンドは一体ナニ?ホントにアイドルのアルバムなの?という感じで度肝を抜かれる。しかし音程そっちのけでハジケる聖子さんの「歌えて嬉しい!」的なボーカルがそれに加わることで、あ、そうか!と(笑)。アウトロはエレピのアドリブでフェード・アウト。この辺も憎いつくり。

  • ブルーエンジェル(アレンジ:信田)

 ドゥワップ調の低音男声スキャット(コーラスは信田・小田ら)で始まるズンタタ・リズムのオールディーズ・サウンド。間奏のサックスもゴキゲン。「青い春と誰もがみな口にするけど ほんとそうね真夏なのにふるえているわ〜」の名フレーズで初々しい“しゃくり上げ唱法”が炸裂。まさに和製コニーフランシス。キュートです!

 初期の聖子さんが得意とした、魅力的な低音ファルセットのヴァースから入り、いきなりテンポアップしてはじけるブラス!鳴り響く松原正樹のギター!がノリノリ痛快なタイトル曲。今もライブのクライマックスで歌われることの多い代表曲のひとつ。サビの「♪ Oh,スコール」の斬新なコード展開は小田氏の真骨頂。

  • トロピカル・ヒーロー(アレンジ:松井忠重)

 タイトルの印象とはちょっとチグハグな、レゲエ調のゆったりしたテンポにやや哀愁を帯びたメロディーが特徴的な異色曲。でも俺、この曲大好きなの。ボーカルはちょっと背伸びしてるな〜という感じだけど「♪トロピカル・ヒーロー、yei yei」のサビ、いきなりのブルー・ノートをしっかり効かせるセイコちゃんに驚きなのです。歌詞は意味不明だけどね(笑)。

 言わずと知れたデビュー曲。化粧品「エクボ」CM曲として使われ、最高位12位ながら30週近くトップ100にとどまり、総売上は28万枚を記録した。最初、CMに出てた女の子(山田由紀子さん)がこの曲を歌ってるんだとばかり思ってたから、歌う聖子さんを初めて見たとき、あまりに素朴でか弱い印象の女の子だったのでビックリしたのを覚えてる。今この曲を聴くと、サビとか、やっぱり「歌謡曲だな」という感じも強くて、セイコ作品の中では「別格」と言えるかもね。

  • ロックンロール・デイドリーム(アレンジ:大村)

 「SQALL」同様、アップテンポで勢いのあるナンバー。イントロのピアノの乱れ打ちがカッコいいです。無理に太く歌おうと頑張るセイコちゃんもどこか微笑ましい。「Rock'n-Roll Goodbye」「Rock'n Rouge」と並べて“ロック三部作”の一つ、と今ワタシが命名します(笑)。

  • クールギャング(アレンジ:松井)

 こちらはシャッフル・ビートのロック。80年代初頭にリバイバルしたストレートなロックをいち早く取り入れた感じで、どこかリンダ・ロンシュタットとかリタ・クーリッジとか当時の全米チャートを賑わしたボーカリストたちを匂わすサウンド。「♪ あなたは〜クールなセクシー・ボーイ」の部分でセイコちゃん、ちょっとハスキーに唸ったり、その後の片鱗を見せてくれる。

 タンタター、タタンタンター、のイントロからしてもう「違う次元」の1曲。セイコちゃんの出世作にして初期の代表作。チャート初登場は60位前後ながら、順位をトントンと上げて2箇月後にはトップ3入りし、最高位2位を4週キープして60万枚を売り上げた。「あ〜〜私の恋は〜南の〜風に乗って走るわ〜」と、まさにビッグウェイブが押し寄せるような伸びやかかつ力強い歌声で(しゃくり上げもバッチリ)、アイドルの頂点にかけ登っていったのであります。

  • 九月の夕暮れ(アレンジ:信田)

 こちらはびっくり、哀愁のAメロからサビでメジャーに展開するところまで、まるっきり初期の河合奈保子。イントロのストリングスからしてまんま70年代歌謡曲を引きずってます。何せミス・ソニーですから、色んな路線を試してみた、ということだろうけど。セイコちゃん、この路線で行ったらちっちゃくまとまりすぎて、きっと大バケしなかっただろうな、ということを確認するには良い材料かも。

  • 潮騒(アレンジ:大村)

 ラスト曲はゆったりとしたボサノバ。デビュー間もないセイコちゃんはこんな曲調でも地声で通しちゃいます。「♪ ラブイズ エブリング」という英語のたどたどしい発音もご愛嬌。でも最後のフレーズ「こんな夜は 抱きしめて」の“抱きしめて”だけ噛み締めるようにウィスパー気味にまとめるあたり、やっぱりスゴイ。
 
 
 今回は書きたいことが多すぎてちょっと長くなってしまいました・・・汗。お付き合いありがとうございました。