りふれっしゅ・こけてぃっしゅ

 感動してます。この瑞々しい音に。

 オーディオマニア向けの雑誌「Stereo Sound」が、過去の名盤の数々を名エンジニアの手によるコダワリのリマスタを施して、ハイエンドなオーディオ環境での再生にも耐え得る最高音質SACDに蘇らせるという好企画「オーディオ名盤コレクション」。聖子さんの80年代の作品がそのラインナップに上がって大きな話題(そのうえ限定販売ゆえすぐにソールド・アウト!)になったのは昨年のこと。そして今年7月、なんと太田裕美さんの「こけてぃっしゅ」(1977年7月発売)と「ELEGANCE」(1978年8月発売)、2枚の夏の名盤がその仲間に加わることに!ワタシ、聖子さんのシリーズの時は迷っているうちに買い逃してしまったので、今回は迷わず即ゲット!でした。
 残念ながら下町の小部屋住まいのワタクシにSACDを再生できる環境は無いのだけれど(苦笑)、とりあえず通常のCD環境でも音の違いがわかるとの触れ込みだったので、CDが届いたその日、夜遅くの帰宅ながらも、届いた段ボールの梱包を解くのももどかしい位にワクワクしながら、金色に輝くそのSACDをウチのミニコンポ(苦笑)のトレーに乗せてプレイボタンを押したのだ。
 そうしたら、やっぱり、違う!!何が違うかって、バッキングの音も勿論だけど、太田さんがまるで目の前で歌ってくれているような、くっきりと瑞々しい声の輪郭、そこが凄くてね。40年前(!)の絶好調な太田さんのボーカルが見事に蘇ってくるのだ。
 太田裕美さんのボーカルは、ご本人も認めているのだけれど、どちらかというとハスキーで、時に低音がくぐもりがち。例えば『こけてぃっしゅ』は、夏の爽やかな早朝を思わせる静かなワルツのバラード「夏風通信」という曲で幕を開けるのだけれど、短いピアノ伴奏のあとに入ってくる太田さんの歌声がとても控え目な囁きに近い声で、今までのCDだと何を歌っているのか、聴き取るのが難しかったのね。ところが今回の音源ではマイクの前で歌っている太田さんが目の前に居るように感じられて、ささやき声でさえもはっきりと聴こえる。
 ダウンロードの普及で中々CDが売れない状況下、比較的CDにお金を落とす中高年層向けの旧盤リマスタは多けれど、大好きな歌手の一番肝心な「歌声」を、これほど感動的に蘇らせてくれたCDは、初めてかも。
 「レインボー・シティー・ライト」での可愛らしいダビングコーラス。「心象風景」のサビ前“♪Day light dream〜”の、空に抜けるようなファルセット。ボーカル絶好調期に録音された「恋愛遊戯」のサビでの素晴らしい声の伸び。そして「暗くなるまで待って」では、アンニュイなボーカルで難曲を見事に歌いきる。その振幅。
 このSACDによって、目の前にさりげなくもくっきりと立ち上がるその40年前の歌声に触れて、太田裕美というボーカリストの素晴らしい才能に、改めて感動せずにおれないのです。
 それにしても、一部では名盤と囁かれながらも、聖子さんとは違って時代を代表するビッグネームでも何でもない(苦笑)“太田裕美”という歌手のアルバムが、こんな形で脚光を浴びて復活するというのは、ファンにとっては「奇跡」以外の何物でもない。本当に嬉しい、2016年・夏のお中元(笑)でした。
 もちろんこちらもオススメ(↓)。

(プロダクション・ノートによれば「「クリスタル・ムーン」の比類のないクリーミーヴォイスさえも、ただならぬ厚みと色気を感じさせてやまない」とのこと。まさにそう!)
〜関連過去ログ〜
「太田裕美アルバム探訪1『エレガンス』」
「太田裕美アルバム探訪6『こけてぃっしゅ』」