一人で生まれてきたのだから

 中島みゆきの「月WINGS」というアルバムの冒頭に「一人で生まれてきたのだから」という曲が収められている。その中に「ひとりで働いて自分を養うだけの一生」という自嘲的なフレーズが出てくるのだが、中年シングルにとっては、このフレーズって、禁句なのだ。それを言っちゃあおしまいよ、という類の言葉。俺が常々嫌だなと考えるのは、例えば自分が今のまま独りで死んだとき、周りの人が流してくれる涙が「悲しみ」ではなく「哀れみ」かもしれない、と思えてしまうこと。「結婚もせず、人生の喜びも知らないままに死んじゃったのね」と。自分なりに作り上げて来たこの人生が、誰にも理解してもらえないままに、永遠に哀れみの中に封印されてしまったら、と思うと堪らないものがあるのだ。冒頭にあげたフレーズには、それを思い起こさせる容赦ない鋭さがある。
 但し、この歌には続きがある。みゆきさんはその後「それはそれでいいじゃないの」という投げやりな肯定を用意している。「誰にもかかわらなければ誰も傷つけない」と。この辺がみゆきさんの歌から得られるカタルシスなんだ。(俺はそこまで仙人的な生き方はしてないけれどね。)以前、みゆきさんのアルバムのキャッチコピーで、「中島みゆきを聴いて楽になった」というのがあったのだが、彼女の歌が孤独な女性やゲイに人気があるというのは、そこなんだと思う。少なくとも中島みゆきその人は、わかっている、それだけで勇気づけられるのである。
 日曜なのに薄暗く寒い、今日のような日は、昼から中島みゆきを聴く。