大胆不敵の歌姫宣言〜中森明菜『DIVA』

 うわ〜〜こうきたか。DIVA(初回限定盤)
 今年に入ってのアキナさんは、フォークソングのカバーに始まって、80年代全盛期のシングルAB面コレクション(復刻プロ集団のライノによるリマスターということで話題になりました)の発売、そして6月からの怒涛のマンスリー・リリース(『ムード歌謡』『フォーク・ソング2』、そして本作)、ホントに久しぶりのライブ活動などを含め実に精力的な活動を続けていて、ファンにとっては嬉しい反面、支出が嵩んで大変なのでは?
 さてそのトリを務めるであろうこの新作。なんと3年ぶりになるオリジナル・アルバムは、ここにきてなお精力的活動を続けている明菜さんのいまの勢いが凝縮されたような、シゲキ的で挑戦的なサウンドにただただ圧倒される1枚。40歳を越え、歌手活動を30年近く続けてきたかつての「トップアイドル」が、いまこの時代、こういうサウンドワークで新作をリリースしたことをまず賞賛したい。アキナ、かっこいいゾ。
 先般放送されたNHK音楽番組「SONGS」のインタビューの中で、アキナさんは確かこんなことを言っていたのね。

仕事をしているときはそればかり考えてしまって、気晴らしに買い物に行ってもやっぱり頭の中は仕事のことでいっぱいで、楽しめないんです。ライブは楽しいけれど、たとえば選曲にしても、大勢のファンの期待に応えようと考えると、あの歌を聴きたいんじゃないか、この選曲で満足してもらえるだろうか、と自問自答を繰り返してしまったり。若い頃はそれで良かったけれど正直、この歳になると、もういいんじゃないか、休みたい、なんてつい思ってしまうんです。でも、ファンの声援を目の当たりにすると、やっぱりもっと頑張ろうかな、と。。。

 俺は番組を録画していなかったので内容は正確ではないかもしれないけれど、大筋では以上のような内容だったように記憶している。(全然違ってたらごめんなさいね。。。)
 たぶん、ここ数年続いたカバー・アルバムのリリースはレコード会社の意向も多分にあるとは思うのだけど、実際に一定のセールスを記録していたし、その結果を受けてアキナ自身も「カバーもファンの期待の一つ」と認めて仕事に徹していたはずだ。しかし「SONGS」のパフォーマンス(とてもキマッてたのよね)を観て、やっぱりアキナが求めているもの、というよりファンから最も期待されていると彼女自身が自覚しているものは「カッコよさ」であるに違いない、ということを感じたのね。そんな期待にしっかり応えたのがこの新作、と言えるのではないかと思う。まさしく上記のインタビューにもあるような徹底したプロ根性があるからこそ、なせる業。
 アイドルに「可愛さ」「華やかさ」が求められていた80年代、一貫して「クールさ」を前面に出して、サウンド面ではロック・テイストを追求する一方、それに「DESIRE」では着物&ボブカット、「TATOO」はボディコンといったビジュアル面のカッコよさを加味して作り上げたのが、全盛期の「アキナ」像。いま思えば、あのとき作り上げたアキナ像こそが、明らかに90年代以降の女性アーティストの本道となった気がする。アイドルはバーチャル世界と絡み合ってデフォルメが進むばかりになって、どんどん「異形化」する一方、その反面その他の女性歌手たちたちは「アーティスト」としてクールさを纏うことが求められていったのが90年代なのではないか、とね。
 前作『Destination』のエントリーでも触れたのだけれど、ライバルのセイコが自分を押し通す過程でどんどんデフォルメされたアイドル世界に取り残されて「孤高の歌手」という印象を強めていったのに対して、一方の明菜の場合その新作に触れるたび、安室奈美恵中島美嘉などその後のメインストリームを歩んできた女性歌手たちを明らかに「明菜フォロワー」として従えていった(つまり明菜こそJポップの王道)ということを確信せざるを得ないのだ。
 さて新作のハナシに戻すと、冒頭「GIVE TAKE」のイントロのズン、ズンというシンセベースの響きからもうクール!な快作です。英語と日本語のフレーズがごちゃまぜ、というのはもうアムロちゃんの向こうを張っている感じ。それどころか2曲目のタイトル作「DIVA」では“I'm legend of DIVA”と「私こそ伝説の歌姫よ!」宣言までしてくれちゃいます。サウンドプロダクトはユニバーサルのコネを生かして新進気鋭のアーティストにごっそりお任せしていて、ここでの明菜さんはひたすらクールに、上から目線で(笑)自分のウタをいかにカッコよく聴かせるか、に専念している感じ。カバー・アルバムで感じるボーカルのワンパターンさは全く無く、「自分だけに与えられたウタ」を(誰にも遠慮することなしに!)得意の低音を中心にさまざまな声音を使って思いのままに料理しているのが、いい。「thinking of you」で聞かせる深みのあるウィスパー・ヴォイスも、これまでのバラード=ファルセットのパターンから脱して、新境地を開いている。バラードも数曲収められているけれど、それがまどろっこしく感じるくらい、とにかくハードかつビートの効いた曲たちが素晴らしくて「オトナのR&B」を堪能させくれる。特にhiroc-fontanaとしては後半の「X lady」〜「 HEARTBREAK」〜「with」の流れがお気に入り。「X lady」のアキナ、久々のシャウトにゾクゾク。
 デビュー28年目にこんなアルバムを出してもらって、明菜ファンは幸せだと思う。でも明菜さん、今年は頑張ったから「もういい、しばらく休む」となっちゃうかもね(笑)。ちなみにタイトル曲「DIVA」が近々シングルカットとのこと。
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