孤高の番組「コーセー歌謡ベストテン」

 1977年の或る土曜日、授業が終わると、一緒に帰ろう、という友達の誘いも断ってひとり家路に急ぐ美少年。「美少年」は余計として、俺はいつもそんな感じだった。FM東京「コーセー歌謡ベストテン」を聴くためである。この番組、現在も確かジャパン・カウントダウンとかいう名前で続いているはずだ。太田裕美のブレイクを機に一気に歌謡曲の世界に傾倒していった俺だが、子供の分際ではなかなかレコードを買えるはずもなく専らラジオのベストテン番組で太田裕美をチェックするうち、他のベストテン歌手たちの当時の名曲たちに触れたことで、いつのまに歌謡曲ファンとなってしまった経緯がある。今思えば70年代後半は、新御三家と百恵・淳子を軸に70年代前半デビューのスーパーアイドル達が揃って充実期を迎えていた頃で、日本のポピュラー音楽界全体が一歩「底上げ」した時代だったのではなかろうか。
 さて、今日のテーマ。数あるベストテン番組の中でも「コーセー歌謡ベストテン」は①FMのクリア(ステレオ!)な音で聴ける、②作曲家である司会の宮川泰のちょっとした楽曲解説(コメント)付き、③ベストテン圏外の曲もちょっとずつ聴ける、という以上の3点で高く評価していた番組だ。①については、イントロに曲紹介を被せない。ワンコーラスでフェードアウトしない。という徹底ぶりも好感度アップで、FM番組ならではのエアチェック(死語)向けの配慮が嬉しかったものだ。②について。新しくランクインした曲に宮川泰が一言コメントする。当時は(たかが)流行歌を専門家が解説するなんて珍しかったように思う。あまり気に入らない曲は結構やっつけのコメントだったりしたけど、それを聴けるのが他の番組にはない面白さだった。筒美京平の作曲「魅せられて」を手放しで絶賛していたのをよく覚えている。③は、圏外11位〜20位の曲をワンフレーズづつ聞かせてくれるという、当時としては画期的な手法。この手法が好評でのちにザ・ベストテンに導入されたらしい。音椿~the greatest hits of SHISEIDO~紅盤
 ただ、この番組、かなり胡散臭い部分もあったのだ。前にも書いたが80年春「化粧品CMソング対決」という現象があった。「唇よ熱く君を語れ(カネボウ)」、「不思議なピーチパイ(資生堂)」、「HEY LADY(確かポーラ?)」が同時期にヒットしていたのだが、この番組ではなんと3曲共トップ20にすらランクインしなかったのだ。いくらコーセー化粧品提供とはいっても・・・である。その他にも演歌が軒並み異常に高ランクにつけたり(集計得点倍化疑惑)、宮川泰が褒めた曲はチャートアクションが良かったり(楽屋落ち疑惑)など、子供ながら怪しいぞと睨んでいたのだが、思い過ごしだろうか。
 まあそれはそれとして、日暮しの「い・に・し・え」とか裕美さんの「恋愛遊戯」とか、他ではランクインしなかった渋い曲がこの番組ではペストテン入りしてくれたり、というのもあってその辺りも含めるとやっぱりこの番組、「FM」というちょっとハイソな環境のもとで他とは一線を画した何となくセンスの良いランキングが出来上がっていて、一目置かざるを得ない、どこか「孤高」のイメージがあるのだ。
 こーせー、こ〜せ〜、かーよーうベストテ〜ン、というテーマミュージック、今も歌えるよ俺。