渡辺真知子「別れてそして」

2000 BEST
 果たしてこの人をアイドル、と呼んでいいのかは別として。近田春夫が彼女のことを「歌謡曲を自作自演する人」と表現していたのを記憶しているが、確かに、いわゆる「ニューミュージック系シンガーソングライター」と称されながら、年末の賞レースでのメダルやトロフィーといったベタなアイテムにも全く違和感を感じさせない人だった、それが真知子さん。
 歌謡曲の自作といえば、ちょっと違うけど、加山雄三みたいな感じ?
 デビュー作「迷い道」、続く「かもめが翔んだ日」が連続ヒット。ザ・ベストテンには毎週のように登場していた。思えば、八神純子久保田早紀も、よくベストテンには出ていたし、「みずいろの雨」や「異邦人」は有線でもよくかかっていた。当時はニューミュージックと言っても売れ方としては完全に「流行歌」であり、今聴けばまぎれもない「歌謡曲」だったりするのだ、実は。(アリスなんて解散後はもろ演歌に転向しちゃったしね。)
 真知子さんはそんな中でも「たとえば・・・たとえば」とか「唇よ熱く君を語れ」といった、タイトルからして歌謡曲チックな自作曲を連発して、その方向性が徹底していた、ということなのかもしれない。やけに歌が上手いところや(歌声も濃〜いし)、キャラの親しみ易さも含めてね。それと、詞とアレンジを専門家(詞では伊藤アキラ、アレンジは船山基紀などポップス系の人を中心に)に任せている作品が多い、というところも、彼女を「歌謡曲歌手」たらしめている大きな要因かもしれない、と思う。ベストアルバムを通して聴いてみても、バラエティーに富んだ「ヒット曲集」の印象が強くて、どうしても作家「渡辺真知子」というものが浮かび上がってこない感じがする。
 俺としては渡辺真知子の大ヒット曲にはあまりひっかかるところがなくて、素通りしちゃうことが多かったのだけど、大ヒットの陰に埋もれた「ブルー」、「ホールドミータイト」といった地味な作品群に惹かれるものがいくつかあって、何となく好感を抱いていたのね。ロングセラーアルバム『海につれていって』も「評判が良かった」し。(俺は、アルバムを買うほどのファンではなかったので聴いてないけど・・・。)
 さて「別れてそして」という曲(79年発売)。この曲も確か最高位33位くらいで、セールス的にはパッとしなかったのだけど、俺は大好きで、ラジオからエアチェックしたテープを繰り返し聞いていた。メジャーセブンスコードを多用した、爽やかなポップチューンで、弾むピアノを中心としたアレンジもとても軽やか。恋人と別れ、雨上がりの翌朝を迎えた女性の、寂しくもどこか吹っ切れた気持ちを綴った歌詞がそんな曲調にぴったり合っていて、今聴いても「いいな」と思う。俺の中では、なぜ、発売当時にあれほど無視された(売れなかった)のか、いまだに理由がわからない曲のひとつなのである。
 あ、そうだ。件の「コーセー歌謡ベストテン」では、この曲、なぜかトップテン入りしてたような気がする。余談だが。
 今、聴き直しているのは「2000ベスト」。通して聴くとやっぱり懐かしさが先に立つけど、後期の曲も含めてメロディアスな良い曲が多いのは確か。しぶとく生き残ってるのも、うなずける。