魅惑のメジャー・セブンス

 中学2年生の頃、誕生祝いか何かで、親にギターを買ってもらったのね。それもクラシック・ギター(♪ それも〜、クラシック〜 By Seiko「ハートをRock」)。最初は「禁じられた遊び」なんかをポロポロと少しづつ練習していたのだけど、結局そんなことは長続きするはずもなく、いつの間にかギターは無理やりに「フォーク・ギター」役を押し付けられて、持ち主hiroc-fontanaから容赦なくジャカジャカとコードを掻き鳴らされるだけの楽器に成り下がってしまったわけ。それも、演奏曲は流行りの歌謡曲ばかり(苦笑)。そう、当時の俺のギター・テキストは「クラシックギター教本」ではなく、明星「歌本」だったということね。
 そんな感じで、「歌本」片手に一生懸命コードを押さえながら“クラシックギター”を伴奏にして当時のヒット曲を歌うというのがささやかな楽しみだった、中学時代の俺がいたのね。(それも家族の誰にも聞かれないように、そ〜っと、ね。なんて暗かったんだろう・・・。)
 で、当時、とても惹かれる曲があったの。それが渡辺真知子さんの「ブルー」。
 ♪ あなたは優しい目 だけどとてもブルー
 この歌い出しのフレーズがとにかく好きでね。「歌本」に載っているの発見して早速ギターで弾いてみた。そうして最初のコード「あなたは(Am7)優しい目(FM7)」を弾いてみて、ハッとしたのを今もよく覚えている。
 あ、レコードのアレンジとおんなじだ〜。って。
 あったりまえじゃん!と言われてしまうかもしれないけど(笑)、そう思ったのは「FM7」のコードの響きのせいだったのだ。あの、なんともモヤッとしたミステリアスな響き、俺が「ブルー」の歌い出しのフレーズが好きだったのは、このコードのせいだったんだ!と気づいたのよね、その時。
 メジャー・セブンス・コード。ド、ミ、ソの3和音にシ(長7度)をを加えた和音。本来は不協和音なはずなのに、短7度のセブンスが醸し出す“不安感”とは真逆で、なぜかボワーンと爽やかな空間の広がりを感じさせる独特の響き。ハイセンスで都会的な響きの和音としてこのメジャー・セブンスがボサノバやジャズで好んで用いられているということを知ったのはずっとあとのことで、俺はただその新鮮な響きがとにかく気持ちよくて、それ以来、いろいろなメジャー・セブンスのギター・コードを指で押さえては「ジャラ〜〜ン」と鳴らして、その音を楽しむのが日課のようになったりしたのだ。
 それで、大好きになったメジャー・セブンス・コードを使った曲を色々調べてみたら、「ブルー」と同時期の太田裕美さんのヒット曲「振り向けばイエスタデイ」をはじめ、野口ゴローちゃんの「きらめき」とか、南沙織さんの「哀愁のページ」、尾崎亜美さんの「マイ・ピュア・レディ」など、ちょっとおしゃれであ〜イイナ〜と思える曲がみんなそのコードを使っていたので、ああ、そうだったのか、と納得したりして。(ちなみに歌謡曲全盛時代の70年代までは、このコードはあまりに洗練されすぎて当時の音楽には使いづらかったというような話も聞いたことがある。)
 そして80年代に入ってニュー・ミュージックが台頭してからは、いよいよ音楽も多様化して歌謡曲も一段とレベルアップしていく中で、メジャー・セブンスを多用する曲が増えていって。代表的なのは山下達郎職人の「RIDE ON TIME」。最初に聴いたときにもうビビっときて。とにかくカッコいい〜、と思えた曲。
 そして聖子さんもヒット曲にメジャー・セブンス系の曲があるのです。それが「小麦色のマーメイド」。俺の中ではセイコ・シングルスのナンバーワンがこの曲なのだけど、やっぱり最初から最後までメジャー・セブンス・コード特有の都会的センスに溢れたオシャレなナンバー。
 J-pop時代に入ると、洋楽と邦楽の線引きはほとんどなくなって、いわゆるメガヒット曲のサビにメジャー・セブンス・コードを使った曲が一気に増えてくるのね。代表例は

あたりかしらね。この辺の曲のサビのアレンジを含めた響きを思い浮かべていただければ、メジャー・セブンスの魅惑的な雰囲気、誰でもなんとなくわかって頂けるかも。
 特筆すべきはスマップで、「がんばりましょう」「青いイナズマ」「セロリ」「夜空のムコウ」「らいおんハート」と、“ちょっとイイ曲系”のスマップソングはほとんど、サビで効果的にメジャーセブンスを織り込んでいたりする。
 「メジャー・セブンス=おしゃれ=ヒットする」の法則が90年代あたりから顕著に見えてきたような気がするのね。