セイコ・アルバム探訪16〜『Glorious Revolution』

Glorious Revolution 1994年6月発売。このアルバム、発売当時はCDをレンタルして聴いたのよね。聴いてすぐ「だめだこりゃ。」と思って、私の音楽ライブラリイからは永久追放!(笑)。
 そんな作品を引っ張り出して約20年ぶりに聴いてみたら、「あら、悪くないわ…」なんて思えてね。時の流れは残酷・・ではなく(苦笑)、時の流れは人の感性までも大きく変えて、すべてを浄化するものなのね、なんてしみじみ思わされてしまって。
 聖子ファンにとっては暗黒の90年代、そのど真ん中に発売されたこの作品、聖子さんの歌詞は相変わらず稚拙で何のコンセプトもない「一人称・ラブ独白」のオンパレードで、特筆すべきものは何もない。
 ただ、小倉良との“名コンビ”によるメロディーは、耳触りは良くとも総じて中庸かつパクリ満載のいつもの路線とはいえ、今聴くと「90年代のJ-popそのもの」に感じるのよね。。。たとえば、ビーイングの一連のポップス系バンドが次々とチャートに送り込んでいた、結局は誰が演奏しても同じような、似たりよったりの曲たち。誰もが口ずさめるようなキャッチーなメロディーと、やたらにポジティブな歌詞がウリのそれら曲たち(=王道J-pop)が、よくよく考えてみれば90年代=セルフ時代の聖子ソングと同類であることは当たり前だったにも関わらず、何故か「別物」と思えていたのは、やはり聖子の“魔法の声”と“洋楽志向”が我々ファンの目を狂わせていたからかしら。。。なんてことを改めて思ったのよね。
 ちなみに、このアルバムでの聖子さん(32歳!)の声は、まさに絶好調。彼女の声がすっかり衰えてしまった今でこそ言えるのだけど、油の乗ったその声だけで絶対の高値感を醸し出してくれます。また、アレンジを小倉以外に中村哲鳥山雄司西平彰を合わせた4氏で分け合っていて、サウンド的にもそれなりにバラエティに富んでいる。特に中村氏のグルーヴィーなサウンドが良いアクセントになっていて、なかなかの聴きものなのだ。
 ちなみにアルバムタイトル『Glorious Revolution』とは、イギリスで実際に起きた歴史上の事件「名誉革命」の意味らしい。簡単に言えばクーデター事件なのだそうだけど、「名誉革命」なんて、聖子さんにはちょっと似つかわしくない感じのタイトルを選んだあたり、当時マスコミからバッシングに曝されながら、93年「大切なあなた」のヒットで女性たちの共感を得て、その名誉を少しずつ回復しつつあった聖子さんの、ひと足早い“名誉回復(勝利)宣言”のようにも思えて、興味深いところよね。
 そんな『Glorious Revolution』、まだまだ挑戦的で、アメリカ進出の夢を断ち切れないまま、欧米でも通用する最先端の音楽を作り上げようという聖子さんの意気込みが感じられるアルバムながら、いくら頑張っても結局は欧米から見れば「周回遅れ」でしかなくて、気づけば“まんま90年代のジャパニーズ・ポップス”が出来上がっちゃっていたわ、みたいなね(笑)。そう、これは音楽界がまだ元気だった90年代の“王道”J-popアルバム。そんな感じで聴いて参りましょう。
 全曲の作詞がSeiko Matsuda、作曲がSeiko Matsuda&Ryo Ogura。

 和製マドンナになりきろうとする聖子。でもそれはあくまでも80年代のダンス・ミュージック。もうとっくに、賞味期限切れだったのにね(苦笑)。どことなくデビュー当時のマドンナを連想させるサウンド。当時CMソングにもなった、サビのキャッチーさ(だけ)で引っ張る作品、と言えるかも。妖艶なサックスと細かく刻むベースは、なかなか。

  • There for you (Album Mix)(編曲:中村哲

 続いてもクラブ系サウンド。こちらはクールな打ち込みのイントロから冴えわたる中村氏のアレンジが白眉。“I will be there for you”のサビで転調するところもカッコイイし、あえて基音に戻らないエンディングも良いアイディア。これは今回聴き直して、改めて仕上がりの良さに唸らされた佳曲。当時の聖子、結構いい仕事してたのかもな〜。

  • もう一度、初めから(編曲;小倉)

 ダンス・ミュージックの畳み掛けからいきなりの歌謡バラードに、思わずズッコケ(笑)。でもね、ベタで切ないメロディーのこの曲、俺は当時から好きでした。歌詞は平凡だけど、テレビでこの曲を切々と歌うときの聖子さんの集中力は、どこか神懸かっていたような印象がある。アルバム先行シングルで、オリコン最高位は22位。

  • わがままなあなた(編曲:小倉)

 続いては、エイトビートのオーソドックスなポップス。これに安っぽいシンセ・アレンジを施した小倉くんが曲を一層つまらなくしている感じもあって、責任とれよ!みたいな(笑)。この曲のズン・タタ、というリズムは、オールディーズ風アレンジにした方が断然良かったと思うのよね。一方、聖子さんのしゃくり上げは絶好調で、ほとんどの高音の語尾を気持ちよく引っくり返らせていて、思わずゾクゾクしちゃう感じ(笑)。

  • Babies Breath(編曲:中村)

 2006年に出したアルバムは『Baby's Breath』。でもあのアルバムにこの曲は収録されず、つまり何の関係もないみたい。そのへんが聖子さんのこだわり?なわけないわよね(笑)。曲はもろZARDが歌いそうな感じの、これぞ王道J-pop。主人公は「地味で目立たない娘(こ)」。その娘(こ)が素敵な彼にベタ惚れされちゃうという、セイコお得意の、お花畑満開世界。トホホ。

  • はじまりはBreak Up(編曲:鳥山)

 ここで再びダンス・チューン。こちらはジャネット「Miss You Much」のセイコ流解釈。ぶ厚いコーラスに煌びやかなサウンド、メリハリの効いたビート、すべてがどこか懐かしい感じで、これ、今となっては結構楽しめるサウンドかもね。編集アルバム『Bible III』にも収録。

  • 天下のプレイガール(編曲:鳥山)

 アップテンポの粘っこいビートに、合いの手的に入るシンセ・ブラスがどこかマイラバサウンド(「白いカイト」あたり)を思い起こさせる。こちらはタカピーな自称「プレイガール」が男に参っちゃうハナシ。歌詞はどうでもいいけど(笑)、ベース&ギター&サックスが絶妙に絡む間奏をはじめとして、鳥山さんのクールなアレンジが耳を惹く1曲。

  • 未来へのDistance(編曲:西平彰

 テーマは遠距離恋愛。距離が二人の絆をきっと強くする、という主人公の揺るぎないポジティブな意志表示、そこからこのタイトルが来るわけね。。。そのあたりが孤高の(?)作詞家・セーコのビミョーな感性よね(苦笑)。フツーだったらやっぱり、遠距離だったら挫折とか浮気とか、あるでしょうに。。。曲の方はと言えば、これぞ90年代のJ-pop、ともいうべき、元気系バンド・サウンド。カラオケの定番曲っぽい感じ。まあ、それだけの曲。

  • わたしにできるすべてのこと(編曲:中村)

 どこかで聴いたことあるような、王道バラード。むしろこういった曲の方が洋楽っぽく聴こえるから、不思議なのよね。。。どなたか、この曲の「原曲」を知っていたら、教えてください(笑)。

  • 続・・・パラダイス(編曲:小倉)

 なんで「続」なの?という疑問があったのだけど、調べたら前年のアルバム『Sweet Memories ’93』の収録曲で「Paradise」という曲があったのね。こちらはいかにもアルバムラスト、といった感じの壮大な印象のミディアムバラードで、ちょっと80年代後半に流行ったアメリカ青春映画のサントラっぽい感じ。悪くないです。