歌謡ワルツの系譜〜この素晴らしき世界

hiroc-fontana2006-05-29

 俺は、ワルツの曲が好きだ。改めてそれに気付いたのはつい最近のこと。先日、日記で薬師●ひろ子の「胸の振子」を名曲として紹介したばかりだが、これはワルツである。そういえば、一時期、クボタ利伸の「Indigo Waltz」にハマっていたこと、カラオケでもよく歌っていたことを思い出した。カラオケといえば、俺がたまに歌う数少ない演歌のレパートリーは、「千曲川だったり「星影のワルツ」だったりする。「みちづれ」は歌えないが、演歌の中では好きな1曲だ。これらは全部、ワルツだ。
 マイフェイバリット・アイドルの曲の中で見ても、太田裕美なら名盤『こけてぃっしゅ』のオープニング曲「夏風通信」、聖子なら唯一ともいえる演歌調の異色作「花一色」、百恵では谷村新司の濃い1曲「ラスト・ソング」など、ワルツ曲に印象に残るものが多いような気がする。
              
 さらに、歌謡ポップス界において忘れてはならないワルツの名曲が2曲。伊藤咲子「乙女のワルツ」、そして岩崎宏美「あざやかな場面」だ。なんたってアイドルポップ ~つぶやきあつめ~大ヒットには至らなかったが、両者とも見事な歌唱力により、ただのアイドルポップスとは一線を画した格調高い世界を示していた。俺も子供の頃、この2曲は何故かよく口ずさんだっけ。この2曲、その後もセルフリメイクや他の歌手のカバーで今だに取り上げられていることからも、3ヶ月リリースのローテーションの中で消費され続ける「普通のヒット曲」にはない、普遍的魅力に満ちた作品であったといえるのではないだろうか。
 こうして挙げていくと、俺の単なる個人的趣味を差し引いたとしても、ポピュラーソングにおいてワルツのリズムを持つ曲に名曲が多いのは事実のような気がするのだが、どうだろうか。
 その仮定について、俺のヘリクツを述べておこう。人間にとって最も基本的なリズムは2拍子−4拍子だ。これは鼓動に呼応する原始のリズムである。トン、トン、トン・・・。その単調な拍の刻みが、いざ3拍子に変化すると突然、音楽的な波動を伴い始める。ン、タッタッ、ン、タッタッとね。つまり、ワルツは「音楽の始まり」なのだ。それが作曲家をして、通常(2・4拍子の原始の状態)から一歩飛び出した創作世界、つまりは芸術へと飛びたたせるのではないかと。だから、作曲家たちがワルツの曲を書く場合、より主体的&芸術的アプローチが求められる結果、自ずと名曲が生まれやすいのではないかと思うのだ。ただし、これはあくまでも俺のヘリクツなので、全く科学的な根拠はないけどね。
 閑話休題、最後に歌謡曲からJ-popに移行した近年の名ワルツを紹介したい。その1曲目が中山美穂「マーチカラー」(1997年)。何を隠そう、初めて耳にしたのはつい最近の事(「Miho Nakayama CollectionⅣ」をやっと見つけて購入したのだ)であり、今回のテーマを書くキッカケがこの隠れた名曲だったのだ。作詞はミホ本人、作曲はもとアイドルでありコーラスグループAMAZONSの一員でもある大滝裕子。テンポの速いジャズワルツで構成されたこの曲、歌に絡むエレキギターとエレキピアノのオブリガードも軽やかな、かなり本格的なウェストコースト系フュージョンサウンドミポリン自身のややフラット気味な音程やリズム感には不満があるものの、全編に流れるハイレベルな音作りは、もはやアイドルポップスの枠を完全に超えている。以前の日記にも書いたが、この曲にあるような高い音楽性が、彼女の女優としての存在感にとっては「無用の長物」でしか有りえなかったように思えるのは、何とも惜しいことだ。この曲もほとんど話題にならぬまま埋もれてしまっていたのだが、俺としては、予期せず出会えて感謝の1曲。
 そして、トリは何と言っても中島美嘉「Love addict」(2003年)である。MONDO GROSSO大沢伸一をプロデューサーに迎えたジャズ・ワルツの傑作。イントロからアウトロまで、バックバンドとボーカルが渾然一体となって生み出す5分間の小宇宙。そこには無駄なものは何一つ無い。ジャズとしても、J-popとしても、スバ抜けた完成度を持つこの曲こそ、戦後日本のポピュラー・ミュージック史上に燦然と輝く金字塔だと(大袈裟だが)言い切りたい!
 歌謡ワルツ名曲コンピレーションCDが出たら、売れると思うんだけどな。