筒美ソング マイ・ベストテン 〜その2

 今日は面倒な前置きは抜きにして、さくっとマイ・ベストテンを発表したいと思う。なお、選定基準については“その1”をご覧いただきたい。では、今回は年代の新しい順に紹介。

 きらめく高原の湖水を想起させるような涼しげなサウンドに、流麗でゴージャスなメロディが乗る。まさしくアコーディオンで奏でられるのが相応しいような音楽、この曲はインストウルメントだけでも十分成り立つ「シーツ・オブ・サウンド」だ。果たして井上陽水が歌う必要性はあったのか?という疑問が残るが、個性派アーティストへの提供曲ということでNOKKOの「人魚」とともに、90年代型筒美ソングの最高傑作には違いないと思う。こっちはぜんぜん売れなかったけどね(泣)。

 80年代後半、トシちゃんに筒美さんから「“さようなら”からはじめよう」、「夢であいましょう」「どうする?」「抱きしめてTONIGHT」と立て続けに提供された名曲リレーはどれも捨てがたいが、その有終の美を飾ったこの「かっこつかないね」。後半のトシちゃんのスキャットとブラスの掛け合いも素晴らしいビート・ジャズで、「君に薔薇薔薇・・・という感じ」の完成形とも言える。最盛期を迎えていたエンターテイナー・トシの魅力と常に日本のポップス界の最先端を歩いてきた筒美京平の夢のコラボによって実現した、70年代以来のアイドル・システムが最後に生み出した幸せな成果である。ホントに、何度聴いてもカッコいい。

 80年代の女性シンガーで最も筒美メロディと相性が良かったのがキョンキョン。彼女への提供曲は「まっ赤な女の子」「迷宮のアンドローラ」「夜明けのMEW」「なんてったってアイドル」etc.個性的かつメロディアスな、これぞアイドル・ポップスともいうべき筒美ソングが見本市のように並んでいる。中でも10分にも及ぶ壮大なこの曲は、どこを切っても筒美さんのおいしいメロディがギュッと詰まっている集大成的作品。キョンキョンの心情に寄り添ったかのような切なくビビッドな田口俊の詞も素晴らしく、聴くたびに短編映画を見たかのような充実した気持ちにさせてくれる曲。

 イントロが流れた瞬間から贅沢な時間が流れていく感じ・・・。ジャパニーズAORの傑作。この曲を聴くたび、俺は条件反射のように村上春樹の短編小説を思い浮かべてしまう。それは「最後の午後の芝生」という小説。メロウなサウンドにちょっと生意気な青年のような稲垣のボーカル、そして横浜あたりの青空と潮風の香りがする爽やかでちょっぴり切ないメロディ。この曲のそんなイメージが、村上氏の小説世界と共通しているからかもしれない。夏の終わりに海辺をドライブしながらこの曲を流したら、絶対泣くと思う。

 男性では郷ひろみと双璧を成す筒美系最重要シンガーのゴロー。ずっと前に日記にも書いたけど、
どっぷりゴロー・ワールド その1 - Lonesome-happy-days
どっぷりゴロー・ワールド その2 - Lonesome-happy-days
彼らの作り出した音楽は、歌謡曲的メロディと洋楽的サウンドがクロスオーバーした唯一無二の世界。「季節風」にしようかこの曲にしようか選ぶのに迷ったけれど、この美しい曲を最初に聴いたときの感動が忘れられないので、最終的にこちらをチョイス。伸びやかでいて繊細な、本当に美しいメロディだと思う。

 「きらめき」も好きだけど、やっぱりこれ。裕美さんファンとしては他にイイ曲もいっぱいあるし、もう聞き飽きてこの曲にあれこれ言うべき事は残っていないはずなのに、有線で突然ふと耳にしたりコンピCDでいきなりこの曲が出てきたりすると「ああ、なんてイイ曲なんだろう、やっぱりこれしかないな」と今更ながらに思わされてしまう魅力がある。メロディは勿論、詞・アレンジ・ボーカルを含めて、30年を経てなお新鮮さを保ち続けている奇跡みたいな曲、俺にとって筒美ポップスの最高峰は、いつも、そしてずっと、この曲なのだ。

 プロが作る音楽としての歌謡曲が元気だった時代。だからこそ生まれたであろうソウル・ロッカ・バラードの傑作がこれ。台湾のショウビズ界で活躍していたフィーフィーの、ダイナミックでソウルフルな歌唱をフルに活かすために作られたかのようなメロディ、アレンジはともに筒美京平。歌謡曲などという狭い枠などとっくに超越した、プロによるプロのための音楽、だから今でも十分聴くに耐えうる完成度の高い世界がここにある。プロの音楽家たちが作り出す重厚なビートに「安心して」身を委ね、陶酔できる喜びは、果たして今のJ-POP界に残っているかな?

  • ひとかけらの純情(73年 南沙織GOLDEN J-POP/THE BEST 南沙織

 アイドル・ポップスの先駆者と言われるのが、南沙織(と筒美京平)。デビュー曲「17才」から続いた南沙織と筒美先生のコラボレーションは、メドレーでも十分楽しめちゃうような、連続した、そして完成された世界を形づくっていて、どれも捨てがたい名曲ばかり。「ひとかけらの純情」は、爽やかな哀愁という、南沙織の世界を最も象徴する作品ということで選んだ。地味な曲のようでいて、カラオケで歌ったりすると、この曲懐かしい〜、とか、大好き〜というような反応が意外に多い。隠れた名曲のひとつ、といえるのだろう。

 爽やかな哀愁、というのは筒美ポップスの大きな特徴だ。この曲のスケールの大きなメロディの裏で、その全編を覆っている切なさ・哀愁は「昭和40年代」という、もしかすると日本人が最も幸せだった時代へのノスタルジイと相俟って、当時の記憶を残している人々、すべての胸を締め付けるような圧倒的な力を持っている気がする。強い力を持った、名曲。
「いつも幸せすぎたのに 気付かない二人だった。」みんなが幸せだったあの時代から、マチャアキが辛い現代に生きる日本人に歌いかけてくる、今聴くとそんな感じがしてしまう。すごい曲である。

 八分音符が並んだメロディから感じる、何とも言えない「しっくり」感とか。小学校で習った日本の唱歌のような、わかりやすくメロディアスな音の流れとか。何よりも、演歌や民謡にはない、洗練されたセンスとか。結局、そんな筒美ソングのあれこれが凝縮されているのがこの曲なのかなあ、と。その頃幼稚園児だった俺は、「ブルー・ライト・ヨコハマ」が子守唄で、この曲をかけると寝つきが早かったそうだ。どうりで・・・。ちなみにあゆみさんと筒美さんのコラボでは他にも、歌謡曲とR&Bのあまりに自然な融合にぶったまげる「涙の中を歩いてる」とか、歌謡ポップスの王道ながら玉手箱的に美メロが詰まった「おもいでの長崎」とか、洗練されたメロディに思わずトリップする「夢でいいから」とか、初期の筒美京平さんの名曲がたっぷり存在しているので、それらも踏まえるとやっぱり、この企画の最後はいしださん、これで決まりだ。
 〜最後まで読んでくれた皆さん、お疲れさま〜