中庸の強み〜石川秀美

 それは、クラクラするような蒸し暑い日。CDの棚で目について、何だかとっても聴きたくなっちゃった、ヒデミ。そう、石川秀美には「日本の夏」が似合う。海の家だとか、濁った海水だとか、黒っぽい砂浜だとか、寝転ぶ場所もないような浜辺の混雑だとか。ハワイ仕様の優ちゃんとか、高級リゾート仕様のセイコとは最初から次元が違う、暑苦しいニッポンの夏ね。
 俺、現役時代の石川秀美には特に興味が無かった。歌はお世辞にも上手くないし、曲も凡庸に感じたし。ルックス的には、クラスに一人はいそうな親しみ易い可愛さがウリだったけど、ゲイである俺には「華がないな〜」くらいにしか見えなくて・・・。きっと、同世代の青少年たちは、親しみやすくスポーティーブルマーが似合いそうな(笑)彼女のルックスを、今で言う「萌え」の対象として見ていたんだろう、そんな気がする。
 冒頭のCDを発見したとき、俺が聴きたいな〜と思った曲は「ゆ・れ・て湘南」なんだけど、これはデビュー間もない頃に新人賞レースでよく耳にした曲で、最高ランクは29位だったのね。でもいざ、通してCDを聴いてみると、予想以上に知ってる曲がたくさんあってビックリ。振り返ってみれば彼女、デビュー翌年(83年)の「Hay!ミスターポリスマン」から85年の年末の「サイレンの少年」まで、3年間に連続13曲もトップテンに送り込んだまぎれもない「A級アイドル」だったのである。
 いくら年頃のオトコのコにとって身近なエッチの対象として素晴らしくても(あ、言っちゃった。笑)、3年以上(実際には80年代末まで現役)にわたって歌手として第一線で活躍するのには何か+αがないといけない。ヒデミちゃんの場合は何だったのだろう。
 わからない!
 でも、思いっきり考えて理由付けするならば、それは「中庸」ということだったんじゃないか。歌は決して上手くない。でも、新曲を出す度に、ゆっくりと着実に成長するヒデミ。実際デビュー曲「妖精時代」のボーカルにはぶっ飛んじゃったけど、3年後の「ミステリー・ウーマン」あたりではすっかり安定している。これは、リリース順に通して聴いて初めて分かるほどの、ゆっくりな成長だ。同時に、ルックスもまるで「薄皮をはがすように」美しく変化していくそのさま。彼女のそんな、生まれながらのスタアとは逆をいくようなあり方こそ、つまり日本人として最も安心感を抱かせる「中庸」の魅力だったのではないか、ということだ。そこにはつまり、次もきっと裏切らずに、少しだけ成長して見せてくれるよね、という期待感が常にあったのではないか、と。
 ま、とりあえず通して聴いてみたところ意外に駄作が少なく、良質な80年代サウンドが貫かれていたことに驚かされ、こんな感想になったたわけで。オメガトライブな「夏のフォトグラフ」、シーラ・Eな「もっと接近しましょ」、70年代のジュンコにタイムスリップ「恋はサマー・フィーリング」。アンテナは広いけど、上ずり・噛み気味のヒデミのボーカルはいつも健在。そんな中に、サビの開放感が素晴らしい「めざめ」、ビートの効いた「あなたとハプニング」、ドライブ感が心地いい「愛の呪文」など、ハッとする名曲が顔を出す。いわば、フツーのアイドルの良いお手本。やっぱり中庸、だったのね、秀美さん。