斉藤由貴「砂の城」

YUKI’s BEST
 俺にとって斉藤さんは、聖子が結婚休業で不在だった80年代中盤、その空白を埋めてくれた、当時のナンバーワンアイドルだったということは、ずっと前の日記で書いた。
 →斉藤由貴の短い青春 - Lonesome-happy-days
 前の日記を書いた頃(2年前)、斉藤さんはほとんど休業状態だったけど、最近は昼ドラやCMで元気な姿を見られるようになってきてうれしい限り。年相応の「明るくて可愛らしい母さん」ぶりがなかなかの好感度で、樹木希林というよりも市毛良枝に近づいている感じがする。さすが元「ミス・マガジン」。うん、イマの斉藤さんも「あり」じゃない?なんてエラソーに言ってしまおう(笑)。
 さて「砂の城」は87年4月発売の斉藤さん8枚目のシングル。発売当時から大好きな曲だったには違いないのだけど、なぜだか最近、この曲がことあるごとに鼻歌で出てくるのよね。そこで今回取り上げてみた。
 ちょっと棒読みな感じのヘタウマな歌声、特に低音部分が出なくて投げやりになっちゃう感じがとても斉藤さんらしくて微笑ましい。前半部分はそのふにゃっとした声がポップなメロディに乗って何とも儚げで、そのくせ風のように爽やかなのだ。そしてサビ「愛はまるで砂の城ね/出来た瞬間(とたん)波がさらう」の哀愁味たっぷりのメロディで感じる強烈なカタルシスがこの曲の醍醐味。聴くたびに次々に寄せる波が砂の城を崩すイメージがスローモーションで再現されるのね。確か当時、コマーシャルでもこの曲がそんなイメージで使われていたような気がするのだけど、どうだったかな・・・。
 作詞は森雪之丞、作曲は岡本朗。(この岡本朗って人、調べてみたら太田裕美さんの名曲、俺の大好きな「ロンリイ・ピーポーⅡ」の作曲者・岡本一生と同一人物だそうで、うれしい発見!)編曲は斉藤由貴といえばこの人、という感じで武部聡志がメロディと一体化した贅沢なアレンジを聴かせてくれている。オリコン最高位は堂々の2位。
 斉藤さんといえば「卒業」「初戀」「情熱」という筒美・松本コンビによる初期の青春歌謡3部作の印象がどうしても強いのだけれど、その後は「悲しみよこんにちは」「青空のかけら」やこの「砂の城」と、少しフォーク寄りのポップス路線を経て、活動中盤からはどんどんアーティスティックな方向へと向かった人。つまり音楽的には「アイドル」的な活動期間は本当に短かったと言えると思う。女優としても早熟だったけどね。
 前作「MAY」から5ヶ月のインターバルを経て発売された「砂の城」は、そんな斉藤さんがアイドル的な顔を見せた最後の曲だ。この後、斉藤由貴がシングル曲を発売するのは7ヶ月後に「『さよなら』」、その1年後の「クリスマス・ナイト」と極端に減っていくことになる。(そしてさらにその1年後に怪作「夢の中へ」が出るのだが・・・。)
 斉藤さんのオリジナリティ溢れた良質なその音楽作品群は、もっと見直されてもいいと思うんだけどね。