セイコ・ソングス1〜「レモネードの夏」

渚のバルコニー   (CCCD)
俺のお気に入りセイコ・ソングの紹介。第1回目です。

冷えたレモネード
白いカフェから 揺れる木漏れ日を見たの
あとあなたに逢えれば もうひと足 早い夏
          (詞:松本隆

 避暑地の初夏を思わせる、新緑の間を吹き抜ける心地良いそよ風のような曲。この季節にぴったりの1曲だ。
 1982年4月発売のシングル「渚のバルコニー」のカップリングとして収められたこの曲。作曲は呉田軽穂、編曲は新川博。ユウミンには珍しく前サビで始まり、新川氏のアレンジも松任谷正隆氏の控えめで上品なアレンジとは一線を画す、歌謡ポップス寄りのやや安っぽさが漂う印象。ただしそれが功を奏して、全体にとてもフックの効いた、これぞ「アイドル・ポップス」というべき曲に仕上がっている。前年1981年の「白いパラソル」を皮切りに、インパクトだけに頼ることのない良質なポップスを立て続けに発表し、他のアイドル達をぐんぐん引き離して独走状態に入っていた聖子さん。そんな中にあってこの曲「レモネードの夏」だけが、いかにも庶民的なアイドル色で異彩を放っている印象がある。
 一方、何よりも聖子さんの素晴らしい声とボーカルが楽しめるのがこの曲の魅力でもある。「風立ちぬ」あたりから彼女の魅力に加わったハスキー・ヴォイスは、この頃はまだ柔らかな低音部分の声にかすかに混じるのみで、全盛期に顕著になる「声の疲れからくる掠れ(かすれ)」感は全く無い。そんな絶妙にブレンドされたハスキー・ヴォイスが、低音でわざと音程を甘めにうたう彼女のクセと相俟って、強い説得力を持ってティーンの少女の微妙な心の揺れを伝えるのだ。
 〜あと あなたに逢えれば もう ひと足 早い夏〜
 このフレーズの「あとあなたに」の部分では、デビュー当初からお得意の質感ある「泣き」の入った張り声。「逢えれば」からは「あ・え・れ・ば」と一音ずつ切りながらウィスパー気味に歌ってシャイな少女のニュアンスを醸し出し、「もう〜」ではほんの少しだけしゃくり上げて甘えた感じを加え、「ひと足 早い夏」で音を置くように歌って醒めた印象で締める。ここでの聖子さんのボーカルは本当に天才的なひらめきがあると思う。
 俺が特に好きなのは、2コーラス目。

時が消した胸の痛み 忘れるのに一年かかったわ
逢いたいのは未練じゃなく
さよならって涼しく言うためよ

最後のフレーズでの聖子さんの切なくも吹っ切れたニュアンスのボーカルが最高。そしてそれは後サビへと繋がる。この流れがこの曲のハイライト。

冷えたレモネード
薄いスライスを噛めば せつなさが走る
あとあなたに逢えれば もうひと足 早い夏

最初のサビのフレーズで出てきた甘く爽やかなレモネードが、最後のサビでは少しほろ苦い味に思えてくる。松本隆氏の詞の構成力にも脱帽、の1曲なのだ。