セイコ・アルバム探訪29〜『North Wind』

North Wind
 聖子さん、デビュー35年目となる今年の年末は、昨年に続いて紅白出場が決定した一方、恒例だったカウントダウンは見送りだそうで、個人的にはちょっと寂しい年末を迎えそう。まあ、久しぶりに家でゆっくり紅白鑑賞というのもイイかな?なんて考えて自分を納得させております(苦笑)。
 さて、久々となったこの企画、今回は34年前、1980年12月1日発売のセカンド・アルバムを取り上げます。
 全体的には、とにかく瑞々しくはち切れんばかりのボーカルが衝撃的だったデビュー・アルバム『SQUALL』の"冬バージョン"的な印象で、タイトル通りテーマは冬そのものでありながら、ロック調のアレンジに初期聖子の特徴であるパワー唱法で押しまくる曲が多く、この盤も彼女の原初的な魅力が溢れている感じ。『SQUALL』SQUALL(DVD付)とセットで聴くと、改めて後世に語られるべき逸材「松田聖子」の登場が如何にセンセーショナルだったかが今更ながらわかってくる気がする。
 とはいえ、デビュー半年を経て、良い意味で彼女の声に少しづつ"翳り"のようなものが加わってきた印象もあって、のちの聖子ボーカルの特徴を語るうえで大きなファクターとなる「ア・ア〜」と歌い出しで音節を切る歌いグセがこの盤から聴かれ初めて、デビュー盤の伸びやかでナチュラルなボーカルと比べると、少しずつではあるけれどボーカルに玄人特有の"媚び"のようなものが加わってきていて、プロの"売れっ子アイドル"としての自覚が生まれてきている印象。今聴くとそんなところが面白かったりする。
 『SQUALL』のチャート最高位は2位だったので、1位を獲得したのはこのセカンドが初めて。売り上げは26.5万枚。売上枚数はファーストより落ちたものの、当時としては新人アイドルでこのセールスはやはり破格だったのは確かでしょう。
 帯コピーは「あの日あのとき刻みたい、聖子。」。"晩秋にもの思う少女"的なイメージ(ジャケットの聖子もそんなイメージをまとっています、イイですね。)と同時に、"青春真っ只中"という若々しさも感じられる、素晴らしいコピー。
 全曲、作詞は三浦徳子。作曲は「Eighteen」(平尾昌晃)を除いて初期聖子を支えた小田裕一郎。アレンジは大村雅朗信田かずおが分け合って担当。
 それでは曲を紹介してまいりましょう。

 79年の八神純子のヒット曲「ポーラー・スター」を彷彿とさせるHorn中心のイントロから、アルプスの雪山を連想するようなアレンジに乗ってノリノリのオープニング。スキー場での「白い恋人」との出会いが夢なのか現実なのかわからないまま、それでも前向きに明日を夢見る感じが、いい。「カウントダウンライブ・パーティー2008〜2009」のオープニングでも歌われた。

  • 花時計咲いた(編:信田かずお)

 少しハスキーに切なく語り掛けるような冒頭のボーカルから、サビの「♪あれからただ〜葉書が来たけど 心のことばは〜何もどこにもない」のしゃくり上げ&泣きのボーカルの対比が見事。花時計の花が咲き、散る頃に小さな恋が終わる、というメルヘンを切なく歌いきる18歳の聖子たん。天才です。

  • North Wind(編:信田)

 タイトル曲は「北風」の冷たいイメージに反して、再び熱いロック調。うねるギターとブラスに乗って、サビ「♪いいのいいのそんなところも〜」を山に、圧のある叩きつけるような強いボーカルが痛快な作品。

  • 冬のアルバム(編:信田)

 こちらは一転して、終始柔らかな低音ファルセットで歌う聖子。こうしたひらめきが彼女本人のアイデアだったのか、ディレクターの指示だったのかは定かではないものの、まだデビュー間もない歌手でありながら、曲によってこうした「押し」と「引き」を見事に歌い分けられるアイドルなんて、そうはいない。その後の全盛期のハスキーなニュアンス・ボーカルの萌芽がみられる名唱。

  • 風は秋色(編:信田)

 80.10.1発売の先行3rdシングル。初登場1位で、聖子さんのシングル連続1位記録のスタートとなった記念曲。売上80万枚は、彼女のシングルでは歴代3位。印象的な頭サビで攻める曲の構成から、サビのメロディーまで「青い珊瑚礁」と全く同じ!ということで、発売当初は「何だかな〜」と思ったのだけど、さりげなく音の広がりがあるメジャー・セブンス・コードを使っていたり、同じメロディで冒頭の「♪La La La Oh,ミルキィ・スマイル」、サビでは「♪Oh,ミルキィ・スマイル抱きしめて」と違うフレーズに使い分けていたりして、意外に凝ったつくりの作品であることを最近、発見したりして(苦笑)。

  • Only My Love(編:信田)

 こちらは初期のコンサートのアンコールでも定番となった名曲。三連ビートに乗せて、聖子さんが切なく歌い上げます。高音は少し喉を締めて、より切ない泣き声に。低音は少しハスキーさが加わりながらも力強く。何度となく歌われている曲ながら、録音版ではまさにこの時期にしか聴けない聖子さんのボーカルだけで魅了されてしまう。

  • スプーン一杯の朝(編:大村)

 タテノリのポップ・ロック。シンセ中心のズンタタしたリズムや間奏のスキャット、リリコンなど、ハデなアレンジが耳を惹く。聖子さんの「ha ha ha ha」というスキャットの、短いフレーズの中で、ひっくり返りそうでいてしっかりコントロールされたアーティキュレーションが素晴らしい。

  • Eighteen(編:信田)

 セイコ・オールディーズ路線の最高傑作。こちらは単独で取り上げた記事「セイコ・ソングス18」をどうぞ。

 冒頭のフレーズ、少しハスキーに「あ・な・たっ・を〜まつのよ〜」と音節を切ってニュアンスを伝える歌い方。その後のブリッコ・ボーカルのルーツはこの曲に間違いないでしょう。まさしく彼女にとってエポックと言えるのはこの曲ではないか、と思う。どこまでもキュートなポップスでありながら、しっかりと作り込まれていて反復に耐えるクオリティ。全盛期のセイコ・ポップスの雛形とも言える作品。

  • しなやかな夜(編:大村)

 吹きすさぶ北風のSEからギターアルペジオの前奏まで、まるで「哀しみ本線・日本海」(By森昌子 (笑))。今では確実に演歌に分類される曲調ながら、切々と情感豊かに歌い込む若き聖子の歌唱力は、このジャンルでもきっと通用したに違いないことを確信させられる作品。デビュー間もない聖子だからこそ、この挑戦が出来たのですね。今となっては貴重な一曲。「しなやか」というキイワードからは百恵さん(しなやかに歌って)を連想させて、ここでの堂々とした歌いっぷりが"ポスト百恵"としての勝利宣言のようにも聴こえます。
 
 ということで、全盛期80年代のアルバムは今回ですべてレビュー完了。祝35周年!