セイコ・アルバム探訪21〜『Silhouette』

SILHOUETTE~シルエット~
 1981年5月21日発売の3rdアルバム。
 当時デビュー2年目の聖子さんが、様々な局面で「変化」を余儀なくされていたことはアルバム『風立ちぬ』の回でも書いた。まず、ポスト百恵として破竹の勢いで突っ走ったデビュー1年目を終え、次の新たな展開が内外から求められていたということ。そして、有無を言わさず聴く者を魅了するその圧倒的な“声のパワー”が、ハードスケジュールのなかで次第に損なわれつつあったという、フィジカル面の変化。
 そのひとつの答えが、新しい作家の起用=財津和夫そして松本隆だったように思うのね。彼らが選ばれた経緯の本当のところはわからないけれども、聖子と同郷であり、バンド「チューリップ」の主要メンバーでメロディーメイカーとしても定評のあった財津和夫氏(前年1980年にソロで「Wake Up」をヒットさせていた)も、そのチューリップへの提供詞で作詞家生活をスタートさせ、聖子と同じCBSソニー所属である太田裕美への提供曲で名を挙げた松本隆氏も、いま振り返ってみれば、至極真っ当かつ絶妙な人選だったように思えたりする。そう思うわよね?
 そして言うまでもなくそれは大成功。アイドル・ミーツ・ニューミュージックの典型的な形でありながら、デビュー以来の聖子イメージもしっかり踏襲した財津作品は、その後の聖子サウンドの進化(深化)への橋渡し且つ中心的役割を果たしていき、一方、リアルでビビッドな松本氏の詞作品は、その後聖子が喉を潰してニュアンス重視の歌い方に変わってからなお成功を重ねていくうえで、必要不可欠な存在となっていったわけね。
 さて、またまた前置きが長くなってしまいました。この『Silhouette』は、そんな過渡期にあった聖子さんの面白さが存分に楽しめる作品。デビュー当時のイメージの曲(小田裕一郎作品)と新生セイコ誕生を感じる曲(財津和夫作品)が仲良く5曲ずつ収録されているほかに、従来のドライブ感たっぷりな声のなかに、ハードスケジュールの中でハスキーになりかけている声が時折聴こえたりして、そうしたボーカルのダイナミックレンジもいつになく広くなっている。そんな意味で、アルバムチャート最高位2位、LP売上げ23万枚・カセット14.7万本というのは、当時のセイコのアルバム成績としてはかなり地味ですけど、過渡期にあった聖子のいくつもの顔が楽しめるアルバムとして、歴代アルバムの中でもオンリー・ワンの1枚には違いないと、私は思ってます。
 帯コピーは「扉をあけたら、もうひとりの私…聖子」。 そう、その通り(笑)。
 では曲紹介です。

 「Back In The U.S.A」みたいなギターイントロで始まる軽快なロックン・ロール。はじけまくる聖子たんはファースト『SQALL』以来の夏ムスメながら、歌声はデビュー・アルバムの頃より随分安定している印象。

 そして松本さん登場。実はアルバム中で松本さんの詞はこの1曲のみ。「♪ 白い貝のブローチを 海に捨てて泣いたの…」と締めくくるこの曲は失恋ソングで、ハスキーになりかけた聖子ちゃんの声と相まって、実に切ない作品。しかしこの夏向けのアルバムに深い陰影を与える印象的な曲に違いなく、この曲の成功がその後の聖子&松本のゴールデン・コンビのきっかけとなったのは間違いなし。この曲の中に「シルエット」という言葉が出てくることからも、制作側もこの曲をアルバム中のべスト・トラックと捉えていたのかもね。

 こちらも名曲です。過去ログ「セイコ・ソングス13」をどうぞ。

  • ナイーブ〜傷つきやすい午後〜(詞:三浦、曲:小田、編:大村)

 曲名通り、初期聖子さんのナイーブなファルセット・ボーカルが聴ける珠玉のバラード。ちょっとハスキーになりかけていながら、澄んだファルセットが素晴らしい。サビも声を張りすぎず、絶妙な声のバランスで切なさを醸し出していて、この娘(聖子たん当時19才)、本当に天才だわ。

 1月発売の先々行シングルなのでまだ声が元気(笑)。スピード感たっぷりに低音中心に地声で押し通すボーカル。「♪走り出した舟のあと〜」と高音まで一気に突き抜けていく声の力強さと、Bメロ「♪つばめが飛ぶ青い空は〜」のマイナー系メロディーで醸し出されるメランコリックな情感がこの頃の聖子の歌声の最大の魅力。ロック調のツインギターに乗って鳴り響くその魅惑的な声と、ブリブリなアイドルとしての可愛さ全開で、見事チャート1位獲得。2年目も好調な滑り出しでした。でも聖子本人は当初、この曲がキライだったらしい。

  • あ・な・たの手紙(詞曲:財津、編:信田)

 こちらも初期聖子のナイーブで透明感あるファルセット・ボーカルが聴ける、財津作品。このアルバム、財津さんと小田さんが違ったアプローチながら同傾向の曲を競い合って創っている感じが面白いのね。この曲は前半の透明感とサビ「♪ ア・ア・ア〜か〜ぜが〜〜っ、わたしぃ〜のっ か〜みを〜〜」の切ないしゃくり上げ(泣き声)の対比が聴きどころ。ゾクゾクするわっ。大好き!

  • Je t’aime(詞:三浦、曲:小田、編:大村)

 続いてはふたたびロックン・ロール聖子ちゃん。勢いまかせで音程は後回し、ちょっとエキセントリックでハジけまくった初々しいボーカルが聴けるのは、このアルバムのこの作品が最後。その意味で貴重な1曲。

  • 夏の扉(詞:三浦、曲:財津、編:大村)

 代わって財津サイドが提示するロックンロールはこれね。4月21日発売の先行シングル。派手なイントロ、ソリッドなギター・サウンドに乗せて、フリフリのミニドレスに聖子ちゃんカット、“夏の扉を開けて〜”、と手をバイバイする振り付けで、まさしく「アイドル聖子」の全盛期を飾った代表曲。初登場16位から翌週2位、都合5週間2位をキープしたあとにようやく1位(2週)という粘り強いロングヒット。

  • 花びら(詞:三浦、曲:小田、編:大村)

 エイトビートが刻む可愛らしい小田版ブリッコソング。聖子さんは大瀧先生の“ロリータ調教”前(笑)ということもあって、テクに溺れず少し恥じらいながらティーンらしく等身大にブリッコ(笑)していて、そこがとても新鮮。ちなみに2005年『Fairy』収録「花びら」とは同名異曲。

  • 愛の神話(詞:三浦、曲:小田、編:信田)

 ラストはAOR。メジャーセブンス・コードが都会的に響く、スケールの大きさとオシャレを備えた佳曲。サビ「♪ どこにいても どこにいても」のしゃくり上げも絶好調。小田さんの聖子ソングとしても有終の美を飾った印象のラスト曲。