石野真子「めまい」

hiroc-fontana2007-05-06

 何だか最近はサスペンスの人、な感じの真子ちゃん。アイドル時代にはチャーミングだったタレ目も、今では内に秘めた情念を巧妙にカムフラージュするための、したたかなオンナの武器にしか見えなくて、ちょっとトホホな感じ。でもアイドル時代の彼女を知る人ほど、その天真爛漫だったキャラクターとは裏腹に、その後の私生活での「恵まれなさ」の印象がどうしてもつきまとってしまうから、やっぱりタダモノではなさそうな気がしてしまうのは確か。そういう意味では本当に、その後の顛末を含めていっさい、70年代アイドルの王道を進んでいる人、なのですねマコちゃんは。
 そんなマコちゃんは78年デビュー。デビューした頃の彼女の笑顔の輝きの素晴らしさと言ったら!それはもう、本当に天使のようでしたね。特にアイドル冬の時代でもあった78〜79年頃、同じく天真爛漫キャラの郁恵ちゃんとともに、風当たりの厳しい「アイドル」というジャンルをふたりで必死に守り抜いて、見事に80年代のアイドル黄金期へバトンをつないだ、その功績はもっと評価されても良いと思うのだ。何だか妙にみんながオトナになっちゃってた感じがする「アイドル冬の時代」のころ、そこに彼女の微笑みがあったからこそ、のちの聖子が、キョンキョンが、アキナが世に出ることが出来たのだ、と少々大袈裟なのは承知の上で宣言したいくらいだ(笑)。
 そんな石野真子ちゃんだったけど、当時の俺はそんなに一生懸命応援してたわけじゃなくって、彼女が歌った「日曜日はストレンジャー」「プリティー・プリティー」という筒美作品のキュートさに少し耳を奪われた程度だったのね。そして結局、俺のマコちゃんの印象はというと、これはあくまでも俺の印象ではあるのだけど、とても「エロい」感じ、それがイチバンなのね。コケティッシュとかいうよりもっとストレートなエロティック。79年のシングルで子供たちを従えたノベルティ・ソングの代表「ワンダー・ブギ」あたりから強烈にその感じが強くなったのだけど。たぶん、ホットパンツでお尻フリフリする振り付けがあったことも影響しているのも間違いないが、ギャグでごまかしながらもどこか確信犯的に「オトコを幻惑させること」が意図されてきたのが、あの歌あたりからだったような気がする。それを証拠にその後は、悩ましく腰を振って登場した「ジュリーがライバル」とか、今の彼と元彼と「♪三人揃って春ららら〜」とフリーセック●を匂わせる「春ラ!ラ!ラ!」とか、いきなり「♪水着の胸のふくらみに〜」という歌いだしにぶっタマゲる「ハートで勝負」だとか、段々はっきりと「その線」にターゲットを絞ることでヒットの規模を拡大していったマコちゃんなのだ。彼女の歌声の特徴は、素直によく伸びる地声で歌うところだと思うのだけど、作りこみのない地声だからこそ、本人の資質の中にある「媚び」とか「艶めかしさ」が、声に乗ってストレートにリスナーに届いてきちゃってたのかもしれないな、なんてことも思う。その辺どうなのかしら?
 さて、その後に出た「めまい」(詞:有馬三恵子、曲:川口真)は80年7月発売の、マコちゃん10枚目のシングル。実はマイ・フェイバリット・ソング・オブ・マコは、この曲なのだ。曲調は当時の彼女としてはとても大人っぽいマイナー・ポップスで、ダブル・レコーディングのメランコリックなサビがとても印象的な作品。ここではエッチさは影を潜めて、どうしちゃったの?という位にマコちゃんの声の切なさが全開。それまでのイメージとは違う、明らかに彼女のターニング・ポイントとなった名曲と言えるのだが、残念ながら、セールス的にはこの曲を境に急激な下降線を辿ることになってしまう。そう、「めまい」が発表された80年夏といえば、聖子が「青い珊瑚礁」でブレイクを果たし、新しいアイドルの幕開けを宣言したちょうどその頃に当たるのだ。「ワンダー・ブギ」以来、男子の妄想を一身に背負って進化を遂げてきたマコちゃんが、あえて期待を裏切って発表した名曲「めまい」は、同時に石野真子という最後の70年代アイドルの幕引きを宣言するきっかけにもなってしまったような気がする。もう、あとはキャピキャピの新人にまかせたわ、みたいな感じが、ある意味とても潔いと言えるのだが、だから余計に、この曲の切なさが、沁みるのだ。