安室奈美恵『Past<Future』

 つい何回か前の日記で「昔の歌謡曲の素晴らしさを知ると流行りの音楽を聴く必要なんてなくなる」と書いた俺。まさか舌の根も乾かぬうちに、リリースされたばかりのベストセラー音楽のレビューを書くことになるとはね。でも、やっぱりアムロちゃんの新作だから、書かずにはおれないの。

PAST<FUTURE

PAST<FUTURE

 ただいま、お約束のヘビロテ中。その中毒性は健在。
 前作PLAYの完成度があまりに高かったから、次はどんな手でくるんだろう?という期待ばっかりで。おまけに昨年は大ヒットしたBEST FICTIONでここ数年のハイクオリティな音楽活動の成果を総決算しちゃったし、その反動か、今年発表したシングル「WILD/Dr.」はちょっと地味な成績に終わっちゃったりで、果たして彼女に「次の一手」はあるのかしら?なんて思っていたのだけど、こんなに正攻法で来るとは思わなんだ(笑)。
 近年の人気アーティストたちは、アルバムリリースの狭間に定期的にリリースしたシングルをごっそり集めて、付け足し程度のオリジナル曲を加えただけみたいなものを「待望のオリジナルアルバム」とか言ってしまうような、エゲツない売り方が主流だけれど、そんな中でアムロちゃんは、地味な成績に終わったシングルのカップリング2曲のみでオリジナルアルバムを出しちゃったわけで。シングル曲とは別に、アルバムはしっかりアルバムとして聴いてください、というわけで、それは一昔前は当り前だったんだけど、レコードセールスが全体的に縮小するなかで、「先行シングル寄せ集め」という安全策を取らずに正攻法勝負に出たアムロちゃんとスタッフは、この作品によっぽど自信があったに違いない。
 まず1曲目「FAST CAR」、2曲目「COPY THAT」の流れでhiroc-fontanaは完全ノックアウト。これはアシッド・ジャズか?ちょっとレトロで無国籍、だけど新しい。まず今回のアムロちゃんはリズムセクションが違うな、という印象。中盤は前作の流れを汲むR&B、クラブサウンドの曲が続いて、従来のファンは安心するのかしら。でも俺はちょっと物足りない・・なんて思ったら8曲目「Dr.」で、え?クイーン?みたいな。これはロックオペラだよね。そしてこれまた心地よい横ノリのグルーブ感がたまらない「Shut Up」(これが俺はイチバン好き)に続き、終盤はバラード系が2曲。バラードになると、彼女の声が一段となめらかに艶を増したことがわかって、アーティスト安室奈美恵の、この日本の音楽界では唯一無二の強力なリズム感・グルーブ感は、正統派ボーカリストとしての安定した実力によって裏打ちされたものなのだと、改めて気付く。うん、確実に成長してる。
 ミュージックビデオも本当に良く出来てるので、DVD付きが絶対オススメ。4人の男性ダンサーを従えたアムロちゃんが歌い踊る「FAST CAR」、もうカッコ良くて可愛くて、これも中毒になります。
 ところで「安室奈美恵」って名前は、よく見るととても古風で日本的な名前なのよね。で、もはや確実に世界レベルのパフォーマンスが出来ているというのに、誰かさんみたいに「全米進出」とやらに色目を使わずに、あくまでも「安室奈美恵」という名前を守りつつ、国内を中心に活動を続けている、というのも何か彼女なりの「心意気」のようなものを感じてしまうのだ。
 『Past