岩崎良美「四季」〜Adult Contemporary歌謡の傑作

hiroc-fontana2010-02-27

 岩崎ヨシリンの5thシングル「四季」は1981年3月発売。作詞:丹羽しげお、作・編曲:佐藤準
 この曲、2年前に再発された彼女の傑作サード・アルバム『Weather Report』にも収録されているのだけど、先日ナニゲにアルバムをヘッドフォンステレオで流していた時に、この「四季」のイントロが流れてきて、何だか突然ビビーンと来て「うわ、カッコイイ!!!」と再認識した曲なのよね。ヨシリンのベストアルバムはずっと前に入手していて、もう何度も聞いているはずの曲なんだけど、なんでだろう、季節的に合っていたのか俺の気持ち的に合っていたのか、突然目からウロコが落ちたようにこの曲のとりこになっちゃった。
 この曲のイントロ。ドラム・パーカッション・ベース・そしてキイボードが絶妙に絡み合い生み出される、シャープかつズシンと腹の底に落ちるようなグルーブ感。それに華を添えるブラスのゴージャスな響き、そして艶かしいグリッサンド。これぞ、70年代終盤から80年代前半にかけて一斉を風靡したアダルト・コンテンポラリー(別名AORサウンドの真髄という感じ。ボズ・スキャッグスTOTOに代表される、プロミュージシャンの緻密な演奏とボーカルとが渾然一体となった、オトナの耳にも十分応える音楽、ということね。「四季」の場合、ヨシリン独特のスベスベした軽い声と、歌謡曲的なクセに染まっていない、正確な音程・リズム感とが加わって、本当に見事なAdult Contemporary soundに仕上がっている。Weather Report+シングルコレクション
 ヨシリンのボーカルが入ったAメロ〜Bメロでは、バッキングはアコギを中心としたボサノバ・リズムを刻んでいて、その抑えた感じがオトナっぽい。そこに時折入るフェンダー・ピアノのオブリガートやドラム・ベースの「キメ」がゾクゾクするほどカッコイイのね。そしてサビはブラスの露払いでハデに幕を開け、ベース・ドラムがズシン、ズシンと重厚なリズムを刻む中、パーカッションが縦横無尽に音のすき間を駆け巡る。そんなバックに煽られて、ヨシリンのボーカルも力強く情熱的に盛り上がっていく。そしてサビあとのCメロ。「♪〜こんな楽園 しあわせなふたり〜Quatre saisons paradis〜」でふと夢から戻りかけたヨシリンはため息交じりのウィスパー・ボイスを聞かせてくれる。それにポロロン〜とからむエレピが色っぽくて、ここがこの曲の白眉。そんな感じで、これまたクールな間奏も含めて、ボーカルもバッキングもまるで隙が無く、最後までオイシイ音が詰まった、贅沢な逸品。
 この曲を手がけた佐藤準氏といえば、元々は先日の日記でも取り上げたCharのバックでキイボードを弾いていた人なのね。「闘牛士」のアレンジもこの人なのでした。その他はおにゃん子関連から、ヨースイ、今井美樹まで幅広く手がけている人なのだけど、そういえば太田裕美さんの最新シングル「初恋」のアレンジもそうだったわ、てことで、俺としては何だかとても嬉しい偶然に思えたのね。どうやらこの人の、スタジオセッションっぽいアレンジが俺の好みに合っているみたい。
 一方、「♪恋をした女の子は 誰でもが天使よ」で始まる丹羽しげお氏による歌詞はかなり乙女チックで、恋物語の中の「四季」の戯れを夢見る乙女心を歌ったもの。そのためか、ネットなどではこの曲の紹介文に「女性に人気がある1曲」とか書いてあるのだけど、ホントにこんなにシブい曲が女性に受けるのかしらね?俺にはむしろ、サウンドも含めていかにも“オッサンごのみ”な感じがしてならないのだけどね(笑)。
 俺も正直、発売当時は、良美ちゃん、なんでこんな難しい歌ばっかり歌うのかしら・・・と思っていたのね。ヨシリン、デビュー曲の「赤と黒」や「涼風」はキャッチーでよかったものの、新人賞勝負曲であるはずの「あなた色のマノン」から少々難解な路線に走り出して、続く4thシングル「I THINK SO」でやや爽やかポップス路線に戻したものの、5枚目のシングルとして登場したこの「四季」は難解路線の極めつけ、て感じだったのよね。時代はセイコや奈保子がアイドル路線を突っ走っていた頃。アイドルに見切りをつけてサウンド指向に走るにはまだ早すぎるでしょ、みたいな気持ちで彼女を見ていたのだけど、次の「LA WOMAN」もやっぱりシブくて「あ、これはホンキなんだ・・・」みたいなね。チャートの最高位も、トップ20入りしたのはセカンドシングルまでで、その後は「マノン」22位→「I THINK SO」23位→「四季」30位→「LA WOMAN」34位と、リリースごとに右肩下がり。とはいえ、私はサウンドで勝負よ、というヨシリンの心意気はファンに伝わったとみえて、その後も「タッチ」のヒットまで5年にわたって地道にスマッシュ・ヒットを続けていくのが彼女の凄さなのだけどね。
 思えば、彼女のこの徹底した「サウンド指向」ってやっぱり「岩崎宏美の妹」という呪縛が大きかったからなのかな?なんて思う。アイドルとしては同期のセイコちゃんはどうしても負けるし(涙)、かといって歌唱力ではどうやっても姉の存在と比べられちゃう。だからワタシは、一切妥協のない徹底した音楽性で勝負、みたいなね。実際にこの曲を聴くと、そんな意気込みが感じられるし、相応のクオリティがあると思う。
 生番組でもほぼ完璧なヨシリンに脱帽↓。バックにはナゾの鯉のぼりが。

 同じ曲ですが、何と言ってもスタジオ録音がやっぱりイイのでこちらも貼っておきます。

 あそうそう、ちなみに宏美姐も、「四季」とほぼ同時期に「胸さわぎ」というボズ・スキャッグスのヒット曲「HOLLYWOOD」を焼き直したようなAC歌謡を送り出してます。ついでにこちらもどうぞ↓