『246コネクション』荻野目洋子

246コネクション[+7]
 1987年7月発売。オギノメちゃん7枚目のアルバム。全作詞:売野雅勇。11曲中10曲の作曲が筒美京平。残る1曲は山崎稔作曲の先行シングル「湾岸太陽族」だから、ほぼ筒美京平ソングブックともいえる作品集で、筒美ファンにとっては貴重なアルバムのひとつと言える。
 ちなみに80年代に筒美京平センセがアルバムごと携わったアイドルといえば、キョンキョン(84年『Betty』)、河合奈保子(84年『さよなら物語』&85年『スターダスト・ガーデン』)、松本伊代(85年『センチメンタル・ダンス・クラブ』)、中山美穂(86年『EXOTIQUE』)、本田美奈子(86年『LIPS』)、田原俊彦(87年『Yesterday My Love』)くらいなもので、どれも散発的なのよね。
 70年代に平山美紀から始まって南沙織、太田・岩崎・ゴーの3ヒロミやゴローあたりにアルバム何枚分も曲を提供した実績から考えれば、80年代はアイドル全盛期だったとはいえ、この年代の筒美センセの作品を眺めてみるとやっぱり売れ線のシングル曲中心のラインナップばかりが浮かんでしまって、先に挙げた70年代のビッグアーティストたちに提供したアルバム曲たちの、渋くもバラエティに溢れていてクオリティの高い曲たちとは、やはりちょっと違うような気がするのね。
 それはやっぱり、筒美先生が感覚的に作りあげた“ちょっと小難しいウタたち”を果敢に歌いこなせる実力を備えたアイドル歌手が、実は80年代は少なかった、ということなのかもしれないけど、ホントのところは良くわからない。
 そんな80年代としては貴重な、それも筒美センセイ最後期のソングブックともいえるこのオギノメちゃんのアルバムが、果たしてボーカル・アルバムとして満点かというと、やっぱりそれは違うような気もするのよね。正直言って、筒美センセの美メロをオギノメちゃんが歌いこなせているかというと、ちょっと心許ない印象も強くてね。
 ただ、この時期、筒美センセイが作品を集中的に提供していた一人がオギノメちゃんだったのも確かで。このアルバムを聴くと、むしろ筒美センセイがオギノメちゃんの良さを引き出すためにピタッと彼女の個性に寄り添って作品を作っているのがよくわかる。そんなアルバム。
 筒美さんをも魅了した(と思しき)オギノメちゃんの魅力は、果たして何だったのか?俺は、正直言ってオギノメちゃんの硬質でクールなボーカルはあまり好みじゃない。だから、このアルバムの良さを説明しようとしても、とても難しいのね。けれども筒美先生は確かに当時、オギノメちゃんに力を入れていたし、実際、このアルバムもよく売れた。そのヒントはアルバムラストに収められている「避暑地の出来事」にあったのね。
 この曲の詞にこんなフレーズがあるのだ。

桟橋の上寝転んだまま
二人で聴いた「夏のクラクション」
白いクーペで遠い少女にもし戻れたら (作詞:売野雅勇

 ああ、そうか、って思ったの。「夏のクラクション」と言えば、知る人ぞ知る、稲垣潤一が歌った名曲。これが売野・筒美コンビ作品だったのね。その曲のオマージュともいうべき曲を歌ったのがオギノメちゃんだったということはつまり、稲垣の少年のようなピュアなボーカルの女声版として、彼女が選ばれたのかもな?ということね。硬質でベタベタしないボーカルだからこそ、青春の甘酸っぱい切なさを却ってリアルに表現できる、という意図ね。これは、90年代以降の青臭いコムロ作品で次々とフィーチャーされたキンキン声の女声ボーカルの先駆け、とも言えるのかしら(汗)。
 そしてそれがこのアルバムではぴったりはまった、というわけね。都会の夏の夜に集う若者たちの、行き場の無い情熱とやるせなさを鮮やかに切り取った売野氏の詞は、実在の地名(青山、軽井沢、東京湾キラー通りetc.)やワンショット・バーとかアメ車とか、バブリーな(笑)キイワードを散りばめて、あざといまでに当時の世相に寄り添ったリアルさを求めてくるのだけど、これをセイコさんのような感情剥き出しのボーカルで聴かされたら、鬱陶しくて仕方なかったかもしれない。これは、オギノメちゃんのボーカルだからこそ、成功したアルバムなのよね、おそらく。
 全体には、ビートの効いたマイナーポップスが並ぶ。オープニングはマイケル・センベロ風な「246プラネットガールズ」。この扇情的なビート・・・80年代的な熱さ、懐かしい。「続・六本木純情派」はヒットシングル「六本木純情派」(作曲:吉実明宏)のイメージを踏襲しながらも筒美流のメロディーセンスで再構築した傑作。「バビロン A GO GO」は「Cha-cha-cha」に代表される当時流行のラテン・ブラスを前面にフィーチャー。ちょっと「ミ・アモーレ」してる。そしてシングル「さよならの果実たち」。このメリハリの効いた切なさはやっぱり、オギノメちゃんのナンバー・ワン・ソング。こんな調子でラストのジャジーな美メロの名曲「避暑地の出来事」まで、一気に突き進む、まさしく捨て曲なしの名盤、です。
 それと。オギノメちゃんて、あんまり華がないな(色気がナイナ)〜というのが俺の昔からの印象だったんだけど、いま改めてジャケ写とか歌詞カードの写真を見ると、結構ボーイッシュな魅力に溢れていて、とてもキュートなのね。これは新たな発見でした。多分、このアルバム、そんなオギノメちゃんのクールな魅力とも相俟って、都会にぼんやりとしたあこがれを抱いた、カントリー・ボーイによく聴かれたのかもね、なんて、何となくそんな気がした。(そうよ!当時、どーしようもなくオクテで、土曜の夜は湾岸ディスコなんて夢また夢、家でただ「オールナイトフジ」を観るだけで悶々としてた俺こそカントリーボーイ、その一人よ!)