『Portrait』竹内まりや

Portrait
 1981年10月21日発売。結婚前、RVC時代のまりやさんの5thアルバム。
 古くはイルカとか、杏里とか、太田裕美さんとか、(聖子さん・・・ちょっとこの方を挙げるのは抵抗があるわね・・・)ソングライターとして確かな実力がありながら、デビュー当初は他者からの曲提供を受けて、シンガーとしてのみでキャリアをスタートしたアーティストって、結構多いのよね。まりやさんもそのひとり。安井かずみ加藤和彦夫妻の作品「戻っておいで私の時間」でデビュー後、同じ布陣での「ドリーム・オブ・ユー」そして「不思議なピーチパイ」が連続ヒットして、デビュー当初はアイドル氷河期だったこともあって、完全に「アイドル歌手」的活動を強いられた、とのちにご本人も苦々しく(?)語っていることは一部で有名な話。
 この5thアルバムは、そんなアイドルチックな路線から次第にまりやさんが自作の(自分の)音楽に目覚める過程がよく現れた作品で、このアルバム、ホントに俺、大好きでいまだに良く聴くの。
 この作品に漂う、カラッと乾いた感じ、これが初期のまりやさんのイメージだったのよね。いかにも帰国子女風な(ご本人はアメリカ留学経験があるだけで、帰国子女ではないけどね)ハイセンスで凛とした印象ね。(いつのまに、不倫主婦路線に走っちゃったのかしら、まりやたん・・・涙)サウンド的には初期の“アメリカン・ポップス”から少し“フォーク・ロック”路線にシフトしていて、この作品、70年代後半のリンダ・ロンシュタットとかニコレット・ラーソンだとかカーラ・ボノフといったウェストコースト系の女性シンガーのアルバムのシリーズに並べたとしても、遜色ない感じがするくらい、今聴いてもホントにカッコいいのよね。
 ソングライティングは、まりやさん以外にはのちのダンナ・山下達郎をはじめ大貫妙子伊藤銀次林哲司安部恭弘松本隆ら。この面子を見てもどこかハイセンスな香りがしてくるわよね。
 ベースの刻みだけのイントロからしてクール!なタツロー作品「ラスト・トレイン」のオープニングから始まって、伊藤銀次との英語デュエットが心地いい「Crying All Night Long」、モータウン・リズムが楽しい「ブラックボード先生」(epoがコーラス参加)、まりやお得意の三連チークタイム系バラード「悲しきNight & Day」、一昨年発売のオールタイムベスト『Expressions』にも収録された名曲「僕の街へ」(林哲司作曲)、そして大貫妙子独特の浮遊感あるメロディーラインがクセになるワルツ「雨に消えたさよなら」・・。このLPでいうA面の流れが文句なしなのね。そして後半はアンルイスに提供した三連バラード「リンダ」、松本・林コンビのキュートなポップス「イチゴの誘惑」、センチメンタルなメロディーのバラード「Natalie」とシングル曲が続いたあと、Stand by meのサウンドを引用した「ウェイトレス」、跳ねたリズムがまりやの真骨頂という感じの「Special Delivery〜特別航空便〜」、温かい伸びやかな声とメロディーのマッチングが素晴らしいラスト曲「ポートレイト〜ローレンスパークの想い出〜」と続く。この流れはまりやの自作詞から彼女の海外生活での想い出の風景が次々と浮かんでくるようで、まるで聴いているこちらもアメリカのウェストコーストを旅しているような気にさせられるのよね。
 いまはすっかりカリスマ主婦として(笑)アーティスト業と主婦業を両立させながら、OLの日常ソングとドロドロ不倫ソングでガッポリ!な感じのまりやさん。(どうして、まりやさんのことを書くと辛口になっちゃうのかしらねえ。笑)ちょっと初心に帰って、あの頃のイカしたアメリカン・ポップス&フォーク・ロック路線で、また勝負してくれないかしら。
 でもご本人は、もうこんなこと、させられたくないのかもね(笑)
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